ハッピーハロウィン

 

この話は、銀英伝の『ドクター』とスラムダンクの『ROOTS』のダブルパロです。
流川に「ジュニア」という息子がいて、ロスで花道と育ててます(はしょりすぎな説明)
わからない方が多いかもしれません… 私は楽しく妄想しました(笑)

 『』が英語、「」は日本語です。


 

 10月31日はハロウィンである。ミッターマイヤーはこのお祭りが割と気に入っている。街中が映画のセットの中のようで、日頃より賑やかになる。思い思いの格好の人々は、いつもより笑顔だと感じるから。もちろんミッターマイヤーの勤める病院でも、このイベントで賑わっている。小児科だから、尚のこと力が入っているかもしれない。
 その日、彼は連続勤務だった。伴侶であるロイエンタールは仕事は休みで、息子のフェリックスと「Trick or Treat!」をしに出かける予定だった。
『せっかく仮装したんだけどな…』
 ミッターマイヤーは5歳になったばかりの息子が選んだ仮装を最初はしぶった。けれど、病院に来る子ども達に大人気だった。おかげで診療はスムーズに進んだ。
『今はこういうのが人気番組なのか』
 自分の格好を鏡で見て、ミッターマイヤーはクスリと笑う。
 今日は小児科での日勤が終わったあと、外来当直の予定だった。この平和的と思っている日に子どもが運ばれてくるようなことがないように、と心から願った。

 ミッターマイヤーの願いはやはり聞き届けられなかった。それでも、それが事件や事故でなかったことが彼の心を少し軽くした。
 夕食の時間という頃、フェリックスと同い年の子が高熱で運ばれてきた。子どもの体温は急激に変化する。若そうな父親が、救急隊員の後ろから走ってくる。申し送りを聞きながら、ミッターマイヤーは考えられる病気を診断し、すぐに指示を出した。
「ジュニア…」
 救急隊員は「マイケル」と呼んでいたが、そばにいる父親は「ジュニア」と呼ぶ。どちらでも構わないけれど、ミッターマイヤーは日頃の呼び名を知りたがった。
『ジュニア君ですね?』
『あ…はい…』
 聴診器を耳に当てようとしたミッターマイヤーは、自分がまだカツラを被ったままだったことに気が付いた。それを取り外すのと、もう一人の人物が呟くのは、同時だった。
「…悟空だ…」
「……何いってやがる」
 ミッターマイヤーは医師として動きながら、その小さな会話も耳にした。理解はできないけれど、言いたいことはわかる。今日何度もそう呼ばれたから。
 救急外来は幸い混んでおらず、ジュニアの検査はすぐに行えた。けれど、さすがに一晩は入院することとなった。
『解熱剤を入れました。血液検査とレントゲンから肺炎を起こしかけてると思います。今夜様子を見て、明日もう一度検査します』
『…はい』
 自分より背の高い東洋人がすぐに頷いてホッとした。もしかして言葉が通じないのではとも思ったから。
 また、落ち着いてこの家族を見ると、黒髪と赤い髪の青年だけなのである。子どもは白人の子と思われ、ベビーシッターなのか、それともロサンゼルスでは珍しくないゲイカップルと養子なのかと考えた。もっとも、治療には直接関係ないことなので、ジュニアの健康状態以外を尋ねたりはしなかった。
 彼らは小さな声でお礼をいい、頭を軽く下げた。
 顔を上げながら、赤い髪の青年が問う。
『…先生…』
『はい?』
『……そのカッコ…』
『あ、ああ……今日はハロウィンなので…でもちゃんとした医師ですよ』
 これも今日何度目かの説明だ。橙色の胴衣の上に白衣を着ているけれど、あまりそうは見えないものらしい。
『…あなたがたは…バスケット選手の仮装を?』
 その青年達は顔を見合わせた。
『いえ…仮装じゃなくて、バスケットやってたときに呼ばれたので…』
『あ…そうですか…ジュニア君が被り物を着ていたので…』
 今ひとつ会話は弾まないまま、ミッターマイヤーは病室を後にした。
 自分よりはるかに高い身長を思い出し、バスケットの選手だということにも納得がいった。
『…それにしても、いくつなんだろう…』
 最後まで名乗らなかった流川と花道は、このとき23歳だった。

 

 ジュニアが目覚めたとき、そこには見たことのない空色の天井があった。ぼんやりと考えても、自分がどこにいるのかわからず、父たちの名前を呼んだ。
『…ダディ…ハナ?』
『あ、目、覚めた?』
 すぐそばで、子どもの声が聞こえ、ジュニアは反射的にそちらを向く。そこには、テレビで見たことのある、けれど青い瞳の孫悟空がいた。
『…ゴクウ?』
『あ、わかる? 今日は俺、ゴクウなんだ』
 ジュニアはその言葉でハロウィンだったことを思い出した。
『お前は…猫? キツネかな…そのしっぽが可愛いよな。あ、俺、フェリックス』
 ゴクウだといったフェリックスがにっこり笑った。ジュニアは熱でぼんやりしたままの頭で、とりあえず笑顔を返した。
『…フェリックス、ダディは?』
『お前のダディ? なんか二人でケンカしてたよ。呼んでくる?』
『………いい』
『オスカーとウォルフもよくケンカしてるよ。すぐ仲直りするけど』
 ジュニアは回らない脳で一生懸命考えた。
『…フェリックス…ママ…は…』
『ママ…は、遠くに行っちゃった。もう会えないんだって』
『……ボクと同じだ…だからね…ダディとハナがね…いるの』
 ジュニアの言葉にフェリックスは笑顔になる。ジュニアも同じような笑顔を浮かべた。
『フェリックス?』
 静かにドアが開いて、聞き慣れない声が入ってきたことに、ジュニアは驚いた。その瞬間までは、子どもだけの空間だったから。
『オスカー、ウォルフは?』
『…それは俺のセリフだ。それから、患者さんのところに来てはいけないと言ってあるだろう』
『ジュニアは友達なんだ』
 フェリックスの強気な言葉にロイエンタールも黙った。被り物の子どもが今ここに横たわる気持ちが、少しはわかる気がしたから。
『…フェリックス。お友達は病気なんだ。疲れさせてはいけないよ』
『はーい』
『……ゴクウ…ううん、もしかして、バーダック?』
『大当たり! ジュニア、すげーな!』
 ロイエンタールには、自分の格好もよくわからない。けれど、子どもには区別がつくらしい。頬に傷があるだけなのに。
『俺の父さんだからね』
 とフェリックスは小さく耳打ちした。確かにフェリックスと彼はよく似ていた。
『…ダディは…仮装はイヤだって…』
『そっかー…でも、それ、似合ってるよ、ジュニア』
 子ども同士の会話が途切れず、ロイエンタールはため息をついて廊下に出た。その入れ違いに入ろうとした長身の青年達に少し驚いて、ロイエンタールは振り返った。
『ダディ? ハナ? ケンカしたの?』
 咳き込みながら、子どもの責める声が聞こえた。どうやら、彼らはあれで家族らしい。
『うちと同じか…』
 そして、彼の伴侶と同じように、ジュニアを養子だと想像した。
『ま、’ゴクウファミリー’ももう一人のゴクウを見つけて、挨拶せねば』
 その頃、グレーの瞳をした悟空は、運ばれてきた別の子どもに捕まって、孫悟空の技を要求されていたことを彼らは知らなかった。

 



『ドクター』も花流小説も、シカゴとロサンゼルスが舞台というのが多いです。
偶然のような、偶然でないような。
シカゴには行ったことないですが、『ER』はシカゴですし、ジョーダンもシカゴですし。
ロスはね、私が好きだからかなー(苦笑)
そして、ハロウィンの仮装、何を着せるか悩みましたが…
ロスで『ドラゴンボール』が大人気だったことを思い出し。
「バーダック」は孫悟空の実の父です。
ミッターマイヤーはフェリックスとおそろいの悟空の仮装。
ああ…なんて解説の多い話…(シーン)
私だけがハッピーなハロウィン話でした(笑)


2005. 10. 31 キリコ
この日付ね…間違いじゃないのです。
アップするのを躊躇ったんでしょうねぇ(笑)

 

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