mein Sohn, Felix.
この、俺の大事な、何者にも代え難い、温かく、柔らかく、穏やかな気持ちにしてくれる存在は、守りたいと両手を拡げる俺の腕の中で静かに寝息を立てている。
親友とも違う、過去の女どもとも違う、もちろん両親とも違う、不思議な存在。いったい、どこからやって来たのか…?
この子が産まれたとき、その場には誰がいたのだろうか。
母親は当然としても、あのリヒテンラーデ一族の生き残りが一人で産めるとは思えないし、まず不可能だろう。同時に、よくこの俺の子を産んだ、と呆れもする。お前が産まれたい、と思ってくれたのか…?
親友が、教えてくれたことがある。この俺がいたからこそ、分身とも言える息子が存在するのだ、と。そうならば、「産まれてくるべきではなかった」と言われ続けたこの俺にも、その存在価値があったのかもしれない、と思えるようになった。
だから、俺の誕生日よりも、はるかにお前の誕生日の方が大事なのだ。お前が、産まれてきてくれて、よかった。
お前が、俺の息子に産まれてきてくれて、よかった。
お前を息子だと呼べる、俺をファーターと呼んでくれる、そのことが自然と俺を笑顔にする。
お前を、心から愛している、と言える。少しでも、いや、可能な限りの幸せを、感じさせてやりたい。すべてのものからお前を守ってやりたい、と思う。
どこにいるのかわからない母親の分まで、俺が父にも母にもなってやろう。
不肖の父を、許してほしい。フェリックス。
明日も俺に笑顔を向けてほしい。それさえあれば、俺は何も恐れはしない。Alles Liebe unt Gute fur Deinen weiteren Lebensweg. mein Sohn, Felix.
2000.10.23 キリコ