オスカーとフェリックス
=雪=
窓に張り付いて外を見つめる小さな肩を、俺は声もかけずに見つめる。
この家に、二人で住むようになって数ヶ月。初めての冬を迎えていた。慣れない育児に翻弄され、子どもとは愛らしいだけではない、ということを身をもって知り、後悔はなくとも、少々参ったのは正直な気持ちだった。
―――それでも…「…オスカー、あれなぁに?」
窓の外を指さして振り向く。何度見てもその瞳は成層圏の優しい色で、俺と同じなのに違って見える。
「あれ?」
ソファに座った息子の目線と同じ高さになるように屈む。これが大事だと親友夫妻に教わった。
「あの、お空から降ってくる白いの…」
「ああ… 雪だよ、フェリックス」
このフェザーンの雪は、真っ白に街を覆ってしまっていた。だから、息子は雪を見ていると思ったいたのに。
「……でもねオスカー? そこにあるのが雪でしょう?」
「…ああ…」
「じゃぁ、この雪も、お空から来たの?」
「…ああ。そうだよ」
「オスカー、外に出てみてもいい?」
俺は、出来るだけ厚着させて、自身で手を引いて外へ出た。風邪を引かないように、転ばぬように。フェリックスは、積もった雪を両手いっぱいに取り上げ、空に向かって投げあげた。
降ってくる雪と、投げられた雪は混ざり合い、ともにフェリックスにかかる。
小さな手編みの帽子の上に、白い薄化粧という感じ。
犬のように頭を振ったフェリックスは、今度は上を向いて口を開ける。
大粒の雪が小さな口に迷うことなく入り込み、息子は納得顔で俺を見上げる。
「オスカー、雪って甘い…」
「…そうか?」
「ね、やってみて?」
この帝国内で、カイザーに次ぐ権力を持っていたこのオスカー・フォン・ロイエンタールが雪を食べる姿は、決して誰にも見せられないとひそかに思った。そう思っても、俺は息子と同じことを、してみたかった。
もしかしたら、こんな大口を開けるのは初めてかもしれない、というくらい、俺は天に口腔内を曝した。
冷たい雪は、目指すところだけでなく、顔中にぶつかって、溶けていく。
「…甘い、かな?」
「でしょう?」
そういって楽しそうに笑う。小さな雪の玉を作り、空に向かって投げる。
「バラバラだとお空に帰れないから、ボールにしたけど… でもダメなんだね…」
さっきから、フェリックスは雪を天に返そうとしていたらしい。
「甘い雪がこんなにたくさん降ってるから、きっと砂場も甘くなるよね!」
そう言って、雪を掘ってみたり。―――こんな、おかしな発想も、話がコロコロ変わるのも、振り回されつつも俺はとても楽しんでいる。
不肖の父が、それでも知るすべてをお前に与えよう。
雪も、次の春も、夏も、何度も巡る季節を共にしよう。
大切なお前が自由に、穏やかに、その道を歩いていけるよう、俺は最大限努力する。
2001.1.10. キリコ