我が親友
我が親友、ウォルフガング・ミッターマイヤーという人物は、万人が認める公明正大、温和な人柄で、その自然な人懐こさは、誰でも惹かれる魅力の一つだ。
友人よりも敵の方が多いこの俺も、やはり引きずり込まれた一人らしい。「よくないぞ、ロイエンタール」
一歳年下であるにしても、階級は同じであり、そんなこと以前に物知り顔で俺に忠告をする。自分なら決してしないだろうことを、俺にまで諭してくるのだ。
「なぜ長続きしないんだ?」
「…さあな」
向こうが呆れたり、想像していた以上に冷たい俺の反応についていけない場合も多いが、たいていはこの俺の心が「違う」と叫ぶ。
「そばにいて安らげるできるような、そんな女性はいなかったのか?」
「…では逆に問うが、『安らぎ』というのは、どういうことなのだ?」
素直に思ったことを口にしたのだが、ミッターマイヤーはグレーの瞳を大きく見開いた。しばらく考えた後、持っていたグラスを見つめたまま彼なりに解説する。
「俺はエヴァといると安らげる。これをどういえばいいのか、自分の言葉で説明するしか出来ないが…、軍人としての地位の向上やローエングラム伯への忠誠とは別の場所があるんじゃないかと思う。男ってのは」
「…男、ということは、生物学的に男である俺にもそのような場所があるはず、と卿は言いたいのか?」
「そうだな…それが一番近いだろうか。好きでもない女性を抱くわけじゃないだろうが、愛する女性はいないのか? ロイエンタール」
真剣な眼差しが、俺のヘテロクロミアに向けられる。本当に俺のことを心配している様子に、皮膚の下だけで小さく笑う。どうも、帝国軍上級大将ともあろうものが、この男にだけは小言を言われたいらしい、と客観的に観察した。
「…愛する、というのとは違うかもしれないが、俺にだって大事な人がいる」
伝わることもないだろう俺の言葉を、珍しく真剣な瞳に乗せてみる。鈍感な親友どのは、決して気づかないだろう。
「誰だ? 今つきあっている女性か?」
「…卿だ、ウォルフガング・ミッターマイヤー。俺にとって卿は何よりも大事な存在だ」
心からの真摯な言葉は、これまでも何度も呟いている。けれど、反応は決まっていた。
「俺だって卿が大事だ。だから、それ以外のところで愛する者はいないのか、と聞いているのに」
酔っている友人は、ほんのちょっと口を尖らす。そんな仕種は30歳前の帝国軍上級大将、疾風ウォルフとは別人だった。一緒にいるだけで自然と微笑んでいたり、目覚めたときにそばにいるのが嬉しかったり、温もりを与え合い、ずっとそばにいてほしい、そんな存在。その人のためになら、きっと何でも出来て、その人を守るためならきっと大神オーディンにも逆らう覚悟。
「俺にとってエヴァはそんな存在なんだ。一緒にいてホッとする」
いきなり勢いよくしゃべり出したかと思うと、またノロケで終わる。最近はこれを聞くのにも慣れてきたが、それでも俺の胸に暗い影が宿る。そしてそれは、だんだん降り積もる冬の雪のようだった。
「卿は…俺にとって大事な男だ。卿がいるから、俺は生きている」
突然自分との話題になり、顔を上げた。
「卿と一緒に羽ばたきたくて、俺は常に卿に追いつこうと努力しなければいけない。卿に命を救われ、優秀な卿と同じ階級をいただける。卿とともに宇宙を駆け巡る」
こんなにも饒舌な男だったろうか、とほんの少し目を見開く。ヘテロクロミアに映る蜂蜜色の髪やグレーの瞳は、間違いなく親友だと言っている。けれど、いつもより多い雄弁に少し戸惑った。
「ロイエンタール、俺はお前に見放されないよう、自分を磨きつづけているんだ。その緊張感は手放せないんだ。わかるか、ロイエンタール? お前は俺にとって大事な男なんだ」
クラリとくるような告白を、サラリと酒の上で述べる。素面では、照れが先に立って出てこないだろう俺への気持ち。
クールな表情の下で、泣きそうになるのを我慢した。
何度も同じベッドで眠り、その度に「体だけでも」、そう思わないでもなかった。まだ若い俺はそれほど自制心に優れていないと、無邪気な寝顔を見ながら、他の女達には感じたことのない昂揚感をで満たされる。
我ながら度し難い、何度もそう呟いた。
ときどきアルコールで解き放たれた自制心が勝り、疾風ウォルフの怒号を吐き出すその唇を覆った。深く眠っている親友は、何も気づいていないと思う。
けれど、反応のない唇に、いつも我に返るのだ。体がほしいわけではない。
こんなにも、相手の心をほしいと思ったのは、ウォルフガング・ミッターマイヤー唯一人。俺の言葉に嘘はないのだ、親友よ。俺にとって卿は、卿の言う「安らぎ」ではないのかもしれない。けれど、卿と告白してくれたのと同じような意味で、俺はお前が大事なのだ。酒の上での笑い話のように、それくらいしか勇気が出なかったからだが、ひそかに本心を暴露する。重ねることで、いつか伝わることを夢見て。
この合理主義、現実主義の俺が、そんな淡いものに頼らざるを得ないくらい、真剣になったときの俺のアプローチは純情なんだ。
10001をヒットしてくれた風香さんへのキリリクでした!
リクエストの内容が「片想いのロイエンタール」ということだったとウル覚え…なんていうくらい、
長い期間お待たせしてしまいました!! リクエストありがとうございましたm(_
_)m
風香さんのサイトにもアップしていただいたのですが… 背景をステキにしていただいただけで、
ずいぶん雰囲気が違っていて、駄文が誤魔化されてます…(笑)
こんな私ですが、これからもどうぞヨロシクです!! 2001.7.3up キリコ