軽く肩に手を置かれただけでも、心臓が汗をかく感じだ。
 どこかに深い意味を探りたくて、でも実際は友情以上ではない触れ合い。
 気軽すぎるお前は、結構罪な存在だと思う。

 目の高さに来る、蜂蜜色のお前らしい髪が元気良く跳ね、俺の鼻孔をくすぐる。
 ものすごく近くにいることが出来るのに、何万光年もの距離を感じてしまう。
 自然と動こうとするこの手を、どのくらいの強さで引き留めているか、お前は知らないだろう。

 明るくて、前向きで、常に正しいお前。誰に対しても、わけ隔てなく接することが出来るお前。そんなお前だからこそ、俺なぞにも笑顔を向けてくれる。そう考えるのは、自虐的だと自嘲する。
 たとえ義理であっても嬉しい、と思っていたことは、決して口には出来ない過去だ。

 自分がなぜこんなにも女を抱くのか、わからないようで、実はわかっている。
 女が苦手だから。
 しょせんこんなもんだ、とどこか卑下しているのかもしれない。
 誰の所有物にもならない俺に群がる女どもを見ていると、どこかの莫迦を連想し、ますます邪険に扱いたくなる。けれど、求められるという一種の優越感も、確かに存在する。
 それがたとえ、ミス・オーディンという美しい女性であっても、俺の琴線はならない。
 俺の心、持っていないと思っていたそれを認識させ、揺さぶるのは、この世でただ一人だ。

 どこから噂になるのか、隠しもしないからか、俺と女とのつき合いについては必ずかの人の耳に入る。
 知ってくれていることに、なぜか嬉しいと思う俺がいる。
 気にかけてくれているのかも、と自惚れる。
 面と向かって怒ってくれるお前に、俺は目眩がしそうになる。
 俺の悪癖を、止めさせられるのも続けさせるのも、お前という存在なのに。

 人間が一人に心酔しきると、何もかもが嬉しく、何もかもが悲しいと感じるのはなぜなのだろうか。

 

 俺にもお前と同じ赤い血が流れ、切ないという表現しか出来ない気持ちを持つことが出来る人間であることを、お前は黙ったまま教えてくれた。
 この瞬間に伝えたいのに… 疾風という異名を取り下げさせてやろうか。

「遅いじゃないか、ミッターマイヤー」

 最期の瞬間まで、お前の名を呟いてしまうだろう。

 

 

 

2003.8.28up キリコ
いつ書いたのか、
思い出せないんですが…
ファイル発見(笑)
ロイ追悼の話でしょう…