誕生日プレゼント
もらっておけば良かったのかもしれない。心も、体も。
あれは結婚する前だったか、その後だったろうか。
赴任先で迎えた誕生日に、特に何の感慨もなく受け取ったいくつかの祝福。
深夜、呑んで、与えられた官舎に戻ったときのことだ。何もかもが面倒で、まっすぐにベッドに向かう。
小さなルームランプだけをつけると、驚いたことに先客がいた。「誕生日おめでとう、ミッターマイヤー」
姿勢を変えずに、穏やかな低いテノールで響くそのセリフは、今日一日何度も聞いた言葉をすべて上塗りするくらい、貴重な価値を持っている、そんな風に思った。
「…卿はここで何をしている?」
その視線だけで、どんな女も間違いなく堕ちるだろうそんな流し目と、小さな笑顔で真面目に言う。
「誕生日に俺をやろうかと思って」冗談とも本気ともつかない口調に、酔っていた自分も乗った。
ベッドに腰掛けて、シーツが立てた音をなぜかよく覚えている。
上体を倒して、互いの瞳を合わせたまま、一瞬だけ触れた唇。
それだけで、おかしくて楽しくて、笑いながら眠りについた。
あのとき、すべて私のものにしておいたなら、卿は今でも私のそばにいただろうか。
耳の奥で記憶しているその声と言葉を、毎年一人、思い出すしか出来ないじゃないか。
同い年になった私は、今日、お前を追い越してしまう。
やっぱり、奪っておけば良かった。
大バカ野郎な親友の、人生も、その魂さえも。
ちっともハッピーじゃない感じなんだけど、ロイが死んじゃった後も、ミッチは生きて歳を取っていくわけで。去年はミッチに泣いてもらったなぁ。
あ、今ドラゴンボール、イタリアで大流行だそうな…(笑) 2001.8.30 キリコ