「クラスメイト」の番外またはパラレルと思ってくださいまし(^^)
同じクラスにいても、「さ」と「る」である。名簿の番号はかけ離れている。近くても遠くても、どうということはない。けれど、席替えで近くに座ることが多かった二人が、唯一離れられるのは試験のときだけだった。
「背が高いのはもちろん嬉しいし、もっと伸びてもいい」
バスケットをするために。
けれど、だからといって一番後ろの席ばかり、という点では、花道も流川も不服だった。正確には、最後尾が嫌なのではない。天敵同士、常に近くに座っているのが気に入らないのだ。けれど、これは日本でのみの適用だ。二人はそう思っていた。
花道と流川が、学年から2人という交換留学に選ばれたのは誰の陰謀か。洋平や桑田を始め、彼らと同学年の連中は皆不思議に思っていた。同じクラスから二人、そしてそこへ替わりの高校生、アメリカ人が入るのである。不公平、と思っても、仕方のないことだった。
しかし、決まった本人達はどちらも嬉しい気持ちでいっぱいで、キャンセルするつもりなど更々なかった。
「花道、お前英語べんきょーしてけよ」
洋平は、楽しそうに準備する親友に声をかけた。
「ぬ? 英語? そんなもんボディランゲージだぜ。ケッ」
「…たとえそれで通じても、相手の言ってることがわからねぇじゃん」
ハッとして花道は手を止めた。けれど、すぐにまた鼻歌を歌い始め、「なんとかなるさ、天才だから」と乾いた笑いを浮かべていた。
その高校にはバスケットの強いチームがある。
それだけを脳にインプットしてしまっていたのである。だから、日常生活のことは何も考えていなかった。期間限定というのもあり、花道にとっては気楽なものだった。そう思いこんでいた。
ところが実際についた世界は、見たこともないような人種、白人、黒人、日本人以外の黄色人種、とにかく多種多様で、花道はまず驚いた。
当たり前だが日本語も通じない。いきなり始まった授業も、数学だ、理科だ、とわかるけれど、内容はわからない。
戸惑うばかりで日にちが過ぎてしまそうだった。
そして、何よりも花道が嫌だったのは、たいていは流川と並ぶか前後かで座らなければならないことだった。決められた中から選んで取る単位制なので、「会わなくても済む」と思っていた。ところが、成績が底辺をはう二人である。楽そうなのを選ぶのは当然の結果であり、ほとんどが同じクラスを履修していた。そして、それだけなら良かったのだが、
「なんでテメーはいつも俺の前に座ってんだ」
前だったり横だったりするが、席自体は後ろの方とは限らない。自分たちより大きかろうが小さかろうが、身長は全く関係ないようだった。だから、流川が一番前の授業もあった。
「…ここはアメリカ」
「………はっ?」
「英語でしゃべれ」
滅多に話せない日本語をぶつける相手は、今のところこの天敵しかいない。花道は、多大なストレスに押しつぶされそうになっていた。
「てんめーこそ、しゃべれんのかよっ」
「…とーぜん」
と強がる流川も、実は英語は話せない。花道よりは、いくらかマシという程度だった。
つまり、二人とも全く授業についていっていなかった。そして、1ヶ月も経つと、それなりに挨拶くらいは出来るようになった。けれど、深い会話は出来ず、お互いイヤだと思いながらも、毎日自然と寄り合うようになった。なんといっても、寮すら別々のところに入れられたのだから。
「なあ…」
授業が全部終わり、同じクラスを取っていた流川に声をかける。
「日本語しゃべらねぇように、って言われたけど、いつもテメー、俺の前だろ?」
「…だから?」
「これって、ちょっとはしゃべってもいーって配慮なのかな」
確かにそのおかげで、二人は毎日顔を合わせ、1日に一度は日本語を話すことが出来る。入学時の校長の言葉を、覚えてはいてもムシしていた。
流川も、いつもなら花道なぞ眼中にないかのようにムシするが、さすがにこの世界にはちょっと参っているらしい。英語も学びたいけれど、苦労のいらない日本語は有り難かったのだ。けれど、エラそうな態度というスタンスは崩さない。
「席は名簿順」
「名簿順? 何言ってやがんだ、「さ」と「る」だぜ?」
「…どあほう」
わざとらしく大きなため息をついて、流川は肩をすくめた。
「テメ! こんなとこに来てまで」
「アルファベットに決まってんだろ」
「……はっ?」
「「R」と「S」。だから、俺が先」
花道は、今まで気がつかなかった。「さ」と「る」は日本語の五十音順なのだから、ちょっと考えれば当たり前のことなのに。
顔が熱く感じられて、花道は照れ隠しに大声を出す。
「…ば、バスケ行くぞ、キツネ!」
「ふん…エラそうに」
そういって、今日も自分たちより強い面々と練習する。このときの英語だけは、すぐに吸収された。
花道は、ほんのちょっとアルファベット順に感謝した。
2002. 7. 18 キリコ
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シリーズにもなってないのに、いきなりパラレルかいなー(笑)
二人がたとえ短期でもアメリカに行っちゃったら、日本の学校行事な二人が書けないから(笑)
もしかしたら、ファーストネームのアルファベット順かな…
私が行ったときは、ファミリーネーム順だったですが。