16歳以上のお嬢さんはどうぞ…(笑)


 

一緒に

 

 ふとんを二つ並べても、それをくっつけて広く使っている。元々そんなにスペースのある部屋でもないし。俺は背中を向けて、寝始める。だけど、深夜寒くなって、だと思うのだが、気が付いたら俺は桜木にくっついている。潜り込もうとするらしい。腕の中に。
「いつも丸くなって寄ってくるからよー」
 朝、一つのふとんで目覚めたとき、桜木はそう言う。確かに桜木側のふとんにいることが多い。
「俺は寝相は悪くねー」
「…寝相の問題じゃねーだろうが」
 そんな会話はしょっちゅうだった。会話、そう…会話だと思う。あまり種類はないけれど。

 今日も今日とて背中を向けて寝る。まだ俺が起きているのに、後ろから規則正しい寝声が聞こえるのは珍しいと思いながら、絶対寄っていくもんか、と自分の体を自分で抱きしめた。
 アパートだからか、単に通気性の問題か。桜木の部屋は、寒いのだ。
 やけに目が冴えている今夜は、真っ暗な中で目を開けて、自分の状況を省みた。
 俺は、なぜわざわざこの心地良いような、悪いような、そんな場所に来てしまうのだろうか、とか。
 考え出すと、だんだん眠れなくなってきて、久々に困った。

 突然桜木が俺のふとんに入ってきた。
「んーー」
 ソノ気なのかと思ったら、眠ったままで、どうやら寒かったらしい。ってことは、単にどっちが先にくっつくか、の問題であって、どちらも寒さで温め合いたいと思っているらしい。…真夜中は。
 いつもと逆、俺が腕枕でもしてやろうかとも思ったが、背中からしっかりと抱きつかれ、身動きできなくなる。しかも温かい。目を閉じてみると、触れあったところからジンワリと温かさが移ってくる感じだ。気持ち良くて、つい自分の腕を太い腕に乗せてしまう。冷たい指を、少しは温かい指に絡めとる。曲がったひざに膝裏をぶつけ、足を挟み込む。結構、いや、かなり温かい、この妙な安心感がスキかもしれない。
 こんな、俺の静かな動きに、桜木は起きてしまった。
「……んー?」
 さっきとは違った、不思議そうなうなり声が肩口に聞こえ、おかしかった。
「…なんだ?」
 俺の声は、小さいけれどはっきりしている。真夜中だと、囁いてしまうのはなぜなのだろうか。
「…あれ?」
 肩から額がはずれ、自分の状況を判断しているらしい。
 説明してやってもいい。今日は、てめーが俺の方に来たんだ、どあほう。
 何も言わなくても、すぐにわかったらしい桜木は、大きなため息をついた。

 これが、いけなかった…

 耳元に吹きかけられた熱い息に、俺はビクリと反応した。握っていた両手に力が入り、軽く爪を立てる。言いたくないが、腰が引けた。
「ふっ…」
 ふいうちなおかげで、声がモロに出て、桜木を喜ばす結果になった。
「ふふん」
 イヤな笑いをすると思ったら、突然耳の奥にピチャリと言う音が響く。まるで鼓膜を直接舐められたかのような、刺激的な擬音。次にはすぐに、熱い物体が入り込んでくる。軟骨にそった動きに、俺はいちいち手を握りしめた。
 体は横を向いているのに、顔だけは枕に埋め、それに耐える。けれど、逃げなかった。さっきの俺の耳を覆いたくなる一声に、腰に当たるモノがオレと同じ状態だとわかったから。

 俺の指を絡ませたままの大きな手が、平たい胸に触れる。トレーナーの上から引っかかれただけなのに、自分の小さな突起が反応しているのがわかって、その手から離れたかった。だけど、身を捩るスペースもなかった。俺よりほんの少し大きい体。
 一枚も衣類を取らないまま、静かにゆっくり手が動き、しかも俺の手はずっと付いて回るのだ。まるで、自分で慰めているようで、余計煽られる。
「…んっ…」
 歯を食いしばって、でも体はウソをつかなくて。
 桜木は、自身を俺に密着させたまま、俺の全身を撫でる。唇で、僧帽筋を温める。鼻息で、うなじに触れてくる。コイツが持っているすべてで、俺を取り込もうとしているかのようだ。

 普段も何を考えているのかサッパリな奴だが、今夜もわからない、まだ知らない桜木の一面かもしれない。といっても、単にSEXのパターンの一つなだけか…。
 お互いスウェットを着たまま、アンダーウェア分だけ肌を曝し、何とも情けない姿になる。欲望だけを、解放してやってる気分だ。手抜きなのか、面倒なのか、はたまたまだ寝ぼけているのだろうか、ふとんに潜り込んだまま、服も脱がずにヤるのは初めてだった。ちなみに、後ろから、ってのも。
 背中から俺の肩に腕を回し、ゆっくりと桜木が進んでくる。少しでも楽になるよう、俺は自然と足をずらした。ずれた足に、同じように足を重ね、徐々に覆い被さられる。俺は、枕から、顔を上げられないままだった。
 いつもの体位との相違点を考えると、少し快感が落ち着く気がする。長持ちさせるために、因数分解しろという噂を聞いたことがあるが、それと同じなのだろうか。
 意識を桜木に集中してしまうのがコワクて、毎回いろんなことに脳を働かせてみる。ヤられるという男のプライドが反発するからか。ただ桜木に負けたくないからか。とにかく、ただヨガルだけ、というのは、どうしても許せない…のかもしれない。
 その時の俺のヴォキャブラリーでは、「一緒に気持ち良くなろう」とは浮かんでこなかった。

 顔が、見えないのがいい。
 ほんの少し、いつもより楽な気がする。
 呻いても、喘いでも、すべては枕が吸収してくれる。
 結構、この体位はこれまでの中でも上位に昇った、と思う。
 けれど、この考えは、桜木が俺の首をひねった時点で下降した。

「ぅうん…」
 突然鼻も口も解放され、そこから漏れる言葉じゃない言葉を隠しきれなかった。また、動かされたことで、ソコもずれる。
「くふっ…」
 だから、とんでもない息しか出来ない。
「…ルカワ? 平気か?」
 耳元で、上擦った声で、囁いてくる。耳が熱くて、肩がピクッと上がってしまう。たぶん、新しい体位の度にされる質問なんだろう。
 ゆっくりとした、いつもの動きなのに、体勢のせいか、ソレの方向なのか、俺の気分のプラスマイナスか、いつもより、反応が速くて高い。
 声を抑えきれなくて、そんな自分がイヤで、また突っ伏そうと思うのに、桜木の大きな手はそれを阻止しようとする。悔しいが、力が入らねー…。
 思いっきり俺の首を後ろに向けられ、大きく開けた口が俺の口を覆う。俺の中に熱い舌が侵入し、俺を食い尽くすようでもあるし、俺から出るすべてのモノを全部吸い取ろうという風でもある。
 熱烈な、奥まで感じるディープ・キス、ってヤツ。

 それに参って、俺はつい伸ばしてしまった自分の一擦りで、イッてしまう。すべての声は、桜木の口の中へ伝わり、熱い息だけが鼻から漏れて、かえってイヤな音となる。
「んふぅっ…」
 同時に、耳がキーンと鳴り、しばらく心臓が止まり、再開は怖ろしい勢いとなり、俺は桜木に支えられたままだった。
 たぶん、俺の声で参った桜木は、
「んーーーーーーー」
 と呻るような喘ぎ声を鼻から出し、俺の口に快感を伝えてくる。
 呼吸が整うまで、お互いの変な声が部屋を充満する。
 二人とも、ならば、しょうがないだろうって感じ。

 なぜか、荒い息が収まっても、お互いのソレが治まらず、アツイ気分が冷めなかった。部屋は、とっても寒いのに。真っ暗で見えないのに、欲情に染まった瞳が見える気がした。
「…もう一回…」
 珍しく、そんな宣言をした桜木は、ゆっくりと俺の服を脱がし始めた。

 

2001.1.22 キリコ

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