社会人のたしなみ?

 

 桜木の髪型や色について、とやかく言う同僚は多かった。入社当時から。社会人らしくない、それどころかスポーツマンらしくもない、などなど。俺の耳に聞こえてくるくらいだから、かなりの人が噂していたということなのだろうか。それとも、わざと俺に聞かせてるのか。俺と桜木が高校も一緒だったことを皆が知っている。今でも同じ会社のチームメイトだ。だから、遠回しに俺から忠告しろ、ということなのかもしれない。そんな奴らには、桜木の高校時代の写真を見せてやろうか。そうすれば、本人の「地毛」発言も、多少信じてもらえるかもしれない。
 俺もこの歳になって、いろいろと推測するようになった。当たってるかは別として。


 桜木が入社して半年が経った頃のこと。二人暮らしにもすっかり慣れ、ほとんど24時間顔を付き合わせている。けれど、別に飽きない。会話が途切れても、それが普通だったし、気を遣わない点は自分の家族以上かもしれない。絶対口にはしないけど。
 桜木はメシを食うのも早い。その上大食らいだ。この歳になっても。ま、俺も人のことは言えないが。
「オメーはずっと変わらねぇな」
「…何の話だ」
 今日も先に夕食を終えて、人が食べるのをじっと見ていた桜木がいきなり言う。
「ああ、髪のこと。真っ黒いままはともかく、髪型とか」
「…いきなり何だ」
 ちょうど噂話を思い出していたときに、髪の話題になってさすがに驚いた。まぁ、俺が知ってるくらいの噂だから、当然本人にも聞こえてるんだろう。
「いや…このリーゼントくらい止めれば、少しは静かになるかなぁとか…」
 そういって、桜木は赤い髪を引っ張った。リーゼントを止めた桜木、というと、ひとつしか思い浮かばない。
「…ボーズ頭?」
「ちーがうっつの。こう…7:3とかいうやつ」
「ななさん分け…」
 真っ赤な髪の7:3。脳みそをフル回転しても想像出来なかった。
「……それって、どんな感じ…」
 尋ねたわけでも、実演してほしいとも俺は言わなかった。言わなかったけれど、桜木は本気で考えていたらしい。何も言わずに洗面所に走っていった。

 ごちそうさまと手を合わせる習慣を身につけさせられ、誰も見ていないのに独りテーブルに向かって手を合わせる。ゴハンだけは、桜木が頼りだった。それ以外は自立してる…と思う。
 洗面所からおかしな呻り声が聞こえ、俺はちょっと興味を持って立ち上がった。
「どんなだ…」
「……こんなだ」
 振り返った桜木に、俺は文字通り吹き出した。久しぶりに大笑いした、つもりだ。
「…なんだよ! そんなに笑わなくてもいいじゃねぇか!」
 顔が髪と同じ色に見えるくらい、桜木は照れながら怒っている。こんなことをマジメにやってみるコイツが、かなりおかしかった。
 笑いが多少落ち着いてから、正直な感想を述べる。
「もうみんなこれまでの、見慣れてんじゃねぇの。かえって違和感ある」
 そういいながら、ベタベタする桜木の髪を立たせた。変な分け目を埋めて、天上に引っ張ってみた。
「そ…そっかな…」
 さすがの桜木も、この自分の姿にはガクリときたらしい。肩を落として大人しくされるがままだ。
 それにしても、なぜこんなにも殊勝な態度に、しかもこんな頃になって出たのだろう。それが不思議だった。首を傾げた俺の疑問が、コイツにはわかったらしい。
「いや…オメーも会社に入った頃は、ちょっと分け目があったって聞いたから…」
 俺は、両目を見開いて驚いた。自分でもすっかり忘れていたが、確かにそういえば…
「…親が…日本の社会人はこうするものだとか言って…やられた。けど、一週間くれーで止めた」
「…たった一週間?」
「……別に髪がどうでも、仕事したし、バスケも出来る。問題ない、と思った」
 俺は特に誰からも注意されなかった。対外的な仕事がないせいもあるかもしれない。けれど、俺と違って、桜木は浮きまくりだから言われるのだろう。
「そっ そうだよな! うん、そうだ! 俺も仕事してるし、バスケにも困らない」
 我が意を得たりと、桜木はまた髪をリーゼントに戻し始めた。もう風呂に入って寝るだけなのに。
 ほんの少し、桜木が周囲から浮いてるのを認めつつ、俺はそれを責めようとは思わない。それどころか、赤以外の、黒や金などにしたら、それは桜木じゃない気がする。なんとなく。やることやって、バスケットで成績を残せばいいんじゃねぇの、とマジに思う。
 だけど…
「…テメー、付けすぎ…」
「オイ、お前のそん時の髪型、見せてみろよ。やってやるから、来い」
 そういって、ベタベタの手で俺を追い回す。
 前言撤回するぞ、どあほう…




花道の髪が流川よりぬらぬら光っているのはポマードたっぷりだから(笑)(←メールより抜粋)
梅さん ありがとうです! 最高っす!(笑)
この素敵ングな流川と花道! ご覧になられましたか! 最高ですよっ 梅さん!!
私のイメージ通りのイラストを送ってくださったので、許可を得てサイトにアップさせていただきました!
ポマードてらてらな花道(笑)も、笑いをこらえて震える流川も、カワイイっ!!!!(笑)
梅さんの素敵サイトはこちらです!(2002.5.14up)


ぜひ挿絵を入れたい!と思っていたのですが… 
ななさんな花道…描けない…(笑) 流川は前髪をちょこっと分ける程度です。

ポツポツと思い浮かんだおまけをアップしておりますが、
繋がってるわけでもないのでリンクはしてないです。
なので、突然高校生の話に戻ったりなんかもある…かもです(笑)

2002. 5. 7 キリコ