穏やかな手

 

 手当て、という言葉を、改めて考えた。手を当てるから手当てというのだと、怪我をして初めて知った。ハンドパワーはないけれど、手のひらを使って治療したり、暖めたり、最近思うのだが、もしかしたら気持ちが伝わるように、なのかもしれない。

 桜木の手は大きくて、温かく、男らしいと思う。悔しいが、俺よりもしっかりしている。でも手だけを成長させることは出来ないし、これは持って生まれたものだから、比べたって仕方ないのに、それでもあの桜木に負けたと思うと、無性に腹が立つ。それでも、俺はあの手が嫌いなわけじゃなかった。

 誘われて、泊まりに行く。
 泊まらない日もある。
 ただし、コトが終わって泊まらない日はないくらい、俺は脱力する。
 誘われたくて、誘われるようにし向ける、そんな日もある気がする。
 俺は、俺から行くとは滅多に言わなかった。

「たまには、てめーから「来たい」とかねーのかよ…」
 拗ねたようなことを言うのは、たいていアレの後だった。俺がぼうっとしている時、そしてもしかしたら桜木が素直な顔を俺に見せる貴重な時に、だ。ふとんや風呂の上だけ、なんていうと、怪しい関係のようだから言い換えると、この桜木の部屋の中でだけ、あるいは、二人きりの時だけは、桜木はいつもの桜木ではない。これがSEXなのだと気付いても、俺はヤメようとは思わなかった。桜木に確かめることもしなかった。それでも、
「今日は抱いてもいいか?」
 と、俺の体調を考えて最後の最後までヤろうとするアイツは、やっぱSEXだと思ってるんだろう。「抱く」という言葉を使うのだから。ってことは、俺は「抱かれてる」ってことなのか…。
 桜木とヤっている時、俺の脳はフル活動でいろんなことを考える。
 それはこの手のせいだ、と責任転嫁する。

 桜木の手は、いつも俺の全部を包み込むように動く。
 仰け反った俺の前髪を、必ずかき揚げる。子供をあやすようでもあるし、自分の前の髪型と同じにしたいだけなのかもしれない。それは嫌だが、髪を梳くこの動きは俺は結構気に入っていた。ウットリと目を閉じると、桜木も繰り返す。
 首も胸も腕も腋も臍も、その下も全部、桜木が触れたことのないところはないだろう。俺ですら知らない場所、きっとこの世で桜木以外誰も知らない場所もある。
 温かい手が、驚くほど優しく動く。いたわるって言葉はこういう動きなのだろうか、と思うくらい、俺は心地良くなる。そうかと思えば、俺を追い上げる激しい動きも見せる。俺は、この手に翻弄され、戸惑うのだ。

 

 


2000.11.13 キリコ
短かすぎたのかー?
忘れ去られていた駄作…
2002. 9.18 キリコ