Fox&Monkey


  

 その年の冬の選抜は、流川も花道も全力を出すことができた。二人が揃ってそうできたのは、高校時代ではこれが最初で最後となった。1年のときの花道のケガ、2年のときの流川のケガ、それらを乗り越え、チーム練習に明け暮れることができた。それでも、彼らは全国に行くことができなかった。
 花道は最近、「高校最後」という言葉に囚われていた。キャプテンや後輩たちにどれだけうっとうしがられても、彼らは湘北高校バスケットボール部を辞めようとしなかった。最後まで力強く引っ張っていった流川と花道に、後輩たちは泣きながら感謝し、謝罪した。
 その落ち込みを、彼らは彼らにしか見せなかった。

「あー……これが最後の試合だったンか…」
 花道の乾いた呟きを、流川は聞き流した。チームプレーという単語がいつでも脳内を回る。自分が、自分たちが、またチーム全体がどれだけ良い動きをしていても、負けるときは負けてしまう。それは個人の責任ではない。その日の何かの作用のせいか、流川にも未だにわからない。当然、経験の浅い花道にもわかることではなかった。
 花道の呟きから約1時間後、流川は呟き返した。
「バスケットは終わらねー」
 花道は、こういうときの流川の言葉にときどきハッとさせられる。それは経験が云わせるものなのかもしれない。花道には、湘北でのバスケットが彼のバスケット人生のすべてだったから。
 勝った日も負けた日も、花道のそばには流川がいた。そのことに改めて気が付いて、また目元がじんわり来た。アメリカについていくと決めて良かった、と思った。
「ち、チッガーーーウッ!」
 畳の上でいきなり叫びだした花道に流川が対応したのは、それから10分ほど経ってからだった。
「…うるせー」
 流川には花道の思考はわからなかった。けれど、負けたとき、彼はおそらく誰のせいにもしていない。自分自身を責めて反省することはあっても。その点が、流川は花道がチームプレーがわかるスポーツマンだと認め、主将となる器だと思ったところだった。決して口にはしないけれど。
「う、ウルセーだとっ!」
「……なんだ…」
 試合後、やっと目を合わせた。花道は口調はいつも通りだったが、その目は潤んで赤かった。流川は予想通りの表情に、大きなため息をついた。
「…どあほう」
「て、てめーは、そればっか!」
 スンと鼻を鳴らし、花道はこたつに顔を埋めた。
 試合に勝ったときも、負けたときも、こうやって一緒にいたから、お互いを隠さなくてよくなった。そのことが、とても気楽だった。それは、弱みを見せることではなかったから。悔しい気持ちは同じだから。
 いつものような会話も、普段より力無い。そうやって日常に戻ろうとしていた。
 しばらくして、流川は花道と同じように、こたつに顔を埋めた。
 

 


二人がずいぶん変わったなー
と感じてもらえたら嬉しいです。
(文章に自信がない…)

2006. 8. 6 キリコ
  
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