『CROSSROAD』の続きの話になります。ネタばれしてると思います。
それでもよろしければ、下へスクロールしてください。
アメリカに着いてすぐのお話
流川の兄は、花道と流川を空港まで迎えに来ていた。まるで流川本人がアメリカで自分を出迎えたかのような錯覚を覚えるほど、遠目ではよく似ていた。
大学のそばにあるアパートメントは、思った以上に広かった。
「あの…寮…とかじゃないンすか?」
「寮にしようかと思ったんだけど、楓もアメリカに来るって言ってたし…」
そして、ちょうど1年前の春から来ていると説明した。弟も、夏には来ると思っていたけれど。
「だからさ、アパートにして…しかも、シェアもしなかったんだけど…結局、ずっと1人だったよ」
その予定だった部屋は、ベッドルームが2つ、広いリビングを間に挟むようにあった。
「あ……あの…オレ…の部屋は…」
「あ、桜木君は楓と一緒でいいかな…って、日本で聞いてない?」
アメリカに行くための相談中、その話は確かにあった。流川は覚えているが、花道は聞き流していたらしい。
案内された部屋は、兄の部屋より広いらしい。そこには、見たこともないようなサイズにベッドが1つ、真ん中を占領していた。
「家具付きの部屋だし…こないだまで俺が使ってたけど」
「一緒……ベッドも一緒…」
「キングサイズだからさ、寝返り打っても落ちなかったよ」
入り口で固まった2人には、兄の説明は聞こえていないらしい。
部屋のショックから立ち直ったのか、流川は自分の荷物を整理し始め、花道はスーツケースを放ったまま、キッチンに立った。
「料理できるの、桜木君」
「は…はぁ…カンタンなものは…」
実は、アメリカ行きが決まってから、花道も流川も家事一般の猛特訓を受けたのだ。
「あ…あの…久しぶりに日本料理をお兄様に…ってお母様が…」
兄は驚いた後、礼を言った。おそらく弟がそう言われただろうけれど、きっと自分と同じで料理に全く興味がないのだろうと少し申し訳なく思った。
「ありがとう…桜木君、その「様」っての、やめようよ」
「……で、でも…」
「俺も「流川」だからね、「いつき」でいいよ」
「は……はぁ…」
本当にこんな調子で暮らしていけるのだろうか。花道は、これからの生活がイメージできないでいた。
しばらく部屋からしていた片づける音が止み、花道は包丁を持ったまま動いた。
「ルカワ! やっぱテメーは…」
「……うるせー」
「ねみーのはわかるけど、今寝ちまったら、時差ボケとかいうのが取れねーぞ!」
「そうそう…こないだも、楓は失敗してたよ」
花道は、流川の胸ぐらを掴み、強引に引き起こした。
「手伝いやがれ! そうすれば、眠くない!」
たぶん花道も眠いのを我慢しているのだ。
結局、ほとんど花道1人で作り、流川はそばで立っていただけだったが、広いテーブルに並べられたお皿が並んだとき、兄は感嘆した。
「俺、いっつもピザとかだったし、みそ汁久しぶり」
せっかく用意されていた炊飯器も、全く遣われていなかった。兄は、流川に似て、料理に関しては不器用らしい、と花道は思った。これからの食事当番がきっと自分になるだろうことも、すぐに予想がついた。食事の途中、ベランダから一匹の猫が入ってきた。
「さくら、おいで」
いつきの呼ぶ声に、花道の肩がピクリと反応した。まるで、自分が呼ばれたのかと一瞬思ったのだ。
「楓と、桜木君だよ」
猫を抱き上げて、新しい同居人を紹介する。さくらは理解しているのかわからないが、知らない人間を凝視していた。アメリカでの1人暮らしが寂しいからと連れてきたさくらは、こちらでの生活に適応しているらしい。楽しすぎて、かつての同居人も忘れたのか。
「桜木君」
「は……はい?」
「やっぱりね、桜木君とさくら、似てるよね」
「………はい?」
「…どこが…」
「顔じゃないよ、楓。どちらかを呼ぶと、どっちも反応しちゃうみたいだね」
流川は、花道の顔を見た。顔は確かに似ていない。さくらはみかんにも似ていなかった。
「…何の話かわかんねー」
「だからね、「花道」って呼んでいい?」
「……は……はぁ…」
「…そんなんどーだっていー」
「ダメだよ、楓。ほら、「花道」って呼んでみなさい」
流川は口に入れようとしていたものを、吹き出してしまった。花道も、呼ばれたことを想像してしまい、無意識に頬が赤くなってしまった。
「……き、きゅーに、命令すンな」
「そんなにムセる話かなぁ…」
「あ、あの…お兄様……その、こいつは、「どあほう」って呼ぶみてースから…」
花道の苦し紛れの言い訳は、かえって兄にため息をつかせた。
「そんなあだ名、失礼じゃないか、楓。そして、桜木君、いつきだよ」
「…あ……はい……」
「最初がカンジンだからね、楓、花道君」
これがアメリカなのか、と流川は思った。それを兄にされると不愉快だというだけで。
「さくら…これから一緒に暮らすから、よろしくね」その夜、彼らは寝る位置で多少揉めた。やり合う声は遠慮がなく、リビングでテレビを見ていた兄にも聞こえ、にぎやかな家になったと笑った。
次の日の朝、花道は誰よりも早起きした。眠れなかったのではなく、体がまだ日本時間なのかもしれない。まだ薄暗い中目覚め、すぐ近くに人の体温を感じ、それが流川だということに少し驚いた。部屋を見回しても、リビングに出てみても、まだ見慣れない家だった。
「アメリカ…」
自分達は本当に来たのだ。
花道は、少しずつ現実のものとして認識できてきていた。世界のどこにいようと、生活は変わらない。花道は、朝食の準備をしようとキッチンに向かった。
花道は、料理に積極的だったわけではないが、それほど苦痛でもないらしい。カップラーメンなどは、きちんと食事をした日と比べると、体の動きが違うと感じられるようになったのだ。少しでも動けるようになるためなら、その努力は惜しまずにいようと思う。
ご飯とみそ汁、持ってきた佃煮、というメニューで、花道は行動し始めた。しばらくして、流川が静かに起きてきた。
起こされる前に起きる流川が珍しくて、花道は声をかけるのも忘れた。
「……ハラ減った」
「…もーちょっと…」
ボサボサの頭のままで、流川は花道の近くに寄っていく。流川の体内時差も、まだアメリカタイムになっていないのだろう。起きたのに、まだ眠そうな流川に、花道は苦笑した。
「…みそ汁?」
「ああ…コレ?」
流川は匂いにつられて歩いているらしい。お鍋に近づいて、鼻をヒクヒクさせた。
「味見するか?」
素直に頷いた流川に、花道はまた笑う。寝ぼけているときは、いつもの流川と少し違った。
「…早く作りすぎたかな…メシまだ炊けねーの」
「……ふーん……うすい…」
「え、そうか? こんなモンじゃねぇ?」
「……もーちょっと」
「…塩分、取りすぎとかになんねーかな」ほとんど頭をくっつけて繰り広げられる会話を、いつきはリビングで見ていた。自分が部屋から出てきたことにも気付かれないくらい、2人の世界らしい。
いつきは大きなため息をついた。
「いいねぇ…楓は、桜…じゃなくて、花道君がいて」
「……はい?」
「…はっ?」
まるで新婚のような2人を、いつきは俯いて笑った。
「花道君は、やっぱりみかんの後継者なんだ…」
みかんが流川のそばにいたように。
制作秘話。全然「秘話」じゃないんですが…(笑)
「本を出そう」と決めたあと、テーマのようなものを考えるんですが、
今回は、「流川が猫を飼ってて、その子どもとかを花道がもらって、会いに行く」ことにしよう、と。
花道と流川を「はなる」にしむける(笑)ためには、何とかして彼らを近づかせなければならないわけで…、そのためには、どちらかに家に行く必要が出てくるわけですな。という場合が多い。
そして、このテーマをベースに、国体やら文化祭をでっちあげ(ぷっ)肉付けし、そんなこんな感じよねーみたに書いておりましたら、あんな本になりました。いつもよく言いますが、「予定は未定」で、漠然と思っていたテーマから、書いているうちに少しずつズレていってしまうわけです。
それでも、今回はホンマに早かった…書き終わるのが。うちには猫がいます。
猫は不思議です。
猫だけじゃなく、動物を飼われている方ならおわかりいただけるのではないかと思うのですが…
つらいことや、泣きたいとき、慰めに来てくれます…よね?
何か、感じてくれるらしいです。不思議だー
こういうこともテーマに入ってたんですが、あまり書けませんでしたね…流川の兄。
こういう設定はあまり見たことがない気がします。姉が多いかな… 姉と妹とか…
なぜ兄を設定したかと申しますと、1巻の流川が短ラン着てるから…
入学してすぐに違反制服(?)を着るのって、兄や近所のお兄さんとか、
そういうアドバイス(?)してくれる人がいないと難しいんじゃない?と思ったから。
実際に、私は制服を変形させたこともないのでわからないんですが…(笑)
今回の話、実はモデル兄弟がおりまして… バレー選手なんですけどね…
末っ子が、流川っぽいんです。身長体重も、そしてお顔の雰囲気も。髪サラサラ!
で、お兄様もバレー選手なんです。それで、一番上にお姉様がいらっしゃる。
この本では、お姉様はほとんど登場してませんので、設定しなくてもよかったかな(笑)
そして、いつきお兄ちゃんにはバレてる…のかもしれませんね…フフフこういうことは、本の「後書き」に書くことなのかしら…(笑)
2007.10.10 キリコ