「でもさー、オメーはハジメテじゃなかったんだろ?」
 そんなところに拘るのは小さい男だ、と流川は言ったことがある。それなのに、花道はやはり気になるらしい。
 流川は、わざとらしいため息をついて、花道に背を向けた。
「オレは……1人としかヤッたことねぇ」
「……ふーん…………へっ?」
 花道は枕に乗せていた肘を滑らせてしまった。
 なんとなく頷いたけれど、よく考えれば、流川の相手は。
「オレ……だけ?」
 流川は返事をしないまま、スウェットを着込んでいた。
 その背中が照れているのだと、今の花道にはわかった。
「ルカワ…オレな……オンナの人といて、ちゃんとしゃべれねぇ…というか…」
 どうしてこんなときに場違いな話をするのだろうか。流川はまた花道を睨んだ。告白させられたばかりの自分相手にひどい話題だと、流川でも思う。
「…ちゃんとリラックスできないというか……自分のこと、話せねぇ…」
「……桜木軍団がいるんだろ」
「…そうなんだけど、アイツらに話せなかったこと、オメーに話せたし…アイツらにもキンチョウしねぇが、オメーには特にだ」
 自分に関する話題でもあるのか、と流川は眉を寄せた。花道は、何が言いたいのだろうか。
「…オメーには、昔から言いたい放題で……でも腹が立つのは、一番気になるショウコで…まさかこんなコトになるとは思わなかったけどよ…」
 花道が照れた笑いを浮かべても、流川は同調することができなかった。
「だからよ…これって……そういうことなのかなァ…と思ってよ」
「……何言ってるかわかんねー」
 流川は、自分の部屋に逃げ帰る体勢だった。花道の言葉を待つのが、初めて恐いと思ったのだ。
「その……おんなじ? かなァ…と思って」
 まだ眉を寄せたままの流川に、花道は先ほど相手に「ちゃんと言え」とお願いしたことを思い出した。
「……スキ…ってコトかなァ…」
 流川といてリラックスできるとは思わなかったのに、今ではたぶん誰よりもそばにいて、何でも言い合える。そして、お互いに自然と気持ちよくなろうとできる。恋愛なのかわからないけれど、これまで付き合ってきた女性たちとのように、自分が気張ることもない。
「まあ……オレがオレらしくいられるんだな、オメーとだと」
 花道が言葉を選んでいる間に、流川は俯いてしまった。戸惑っているのだろうか、それとも嬉しいと思ってくれるだろうか。
 花道も少し躊躇いながら流川に近づき、その肩を抱き寄せた。

 

 それから一週間ほど経ち、花道は桜木軍団と飲んでいた。かなりの量を消費した後、顔を赤くした花道が、俯きながら報告した。
「あ……あのよ…オレ…ドーテイじゃなくなった…」
 その様子に、全員が動きを止め、食べかけのものはテーブルにボタリと落ちた。それくらい、驚きで固まったのだ。
「あ、今更でおせーって思われてンのかもしんねーけど…」
 低姿勢な花道が珍しくて、未だに誰もが目を見開いたままだった。
 実際には、花道からその手の話題を振ってきたことに、驚いていたのに。
「いや…その、花道…遅いとか、そんなん思ってねぇよ…な?」
 現実にいち早く戻ってきた洋平が、軍団に同意を求めた。そして、それぞれにお祝いの言葉を繋げた。
「これって…メデたい…のか?」
 戸惑いながらも嬉しそうな花道に、洋平は小さく笑った。
「まあ……区切りかな…どういう状況かは聞かねぇが、お前が幸せそうな顔してるから、めでたいんじゃないか」
「……しあわせ…」
「いつの間に彼女がデキてたんだよ、花道」
「…最近、ウワサになってなかったのにな」
 それからの会話を、花道は上滑りで聞いていた。報告したものの、相手のことをどう話したら良いのか、思いつかなかったのだ。
「そうだ、花道。流川は元気か?」
 突然、流川の話が出て、花道は飲んでいたビールを吹き出した。
「きったねぇなあ…」
 笑われる様子に、洋平だけはため息をついた。
 あの流川が、ついに花道を落としたのだろうか。
 あれから何年も経つのに、あの男は変わらず花道を想っていたのだろうか。
「バレバレだったと思うんだけどなァ…」
「…洋平?」
 スキな相手にどう接していいのかわからず、でも構いたい流川と、どうしても気になって突っかかっていった花道。
「最初っから両想いじゃん。意地っ張り同士だから時間かかったけど」
「…何の話だ、洋平?」
 洋平は、花道に笑顔を向けた。
「花道が幸せなら、それでいいってことだ」

 そんな会話を思い出しながら、花道は帰宅途中に初めて気が付いた。
「もしかして……ルカワって…まだ…」
 童貞なのかもしれない。相手は1人だけと言った。それが自分だと思った。けれど、「気持ちよかった」とも曰ったのだ。
「おいルカワ!」
 花道の部屋で寝ていた流川は、花道の声で飛び起きた。たまたま眠りが浅いときで、そうでなければ起きなかっただろう。
「…うるせー、どあほう」
「…てめー正直に答えやがれ!」
 お酒の匂いをさせながら近づく花道を、流川は遠慮無く両手で押しやった。
「……その…オメー…まだ…だよな?」
「…何が」
「そ、その……ドーテイ?」
 胸ぐらを再び捕まれて、流川はわざとらしく目を見開いた。
 花道の必死な顔に、流川はニヤリと笑った。
「……信じた?」
「な、なにっ いったいどっちだ、てめー!」
「……うるせー、大声だすな、どあほう…」
 どうしてこういうことに拘るのか。流川には理解できなかったけれど、それでもおかしな誤解は解いておくにこしたことはないと思う。花道は、思っていた以上に嫉妬深いらしいから。
 ずっと、花道だけを想って、誰とも付き合ったことはないと、素直に言えたらいいのに。
「……だから、今度、協力しろよ」
「………へっ?」
 流川は相手のまだよく動く口を自分の唇で塞いだ。

 

「金髪のお姉さんは?」
「……知らねー、そンとき近くにいただけじゃねぇの」
「…こないだ、ファンレター受け取ってただろ?」
「………そんなん、いつものことじゃねぇか」
 受け取りはするものの、中身を見たことはないのに。
「じゃあ……ホントに…まだ?」
「……しつけーぞ、どあほう」
「そうだ! だってオメー、やたら詳しいじゃねぇか? オレにウンチク垂れてたじゃねぇか!」
 深夜の尋問は、それからまだしばらく続いた。
 そのとき、流川は花道の腕枕に、半分夢の中だった。
 怪我をして日本に帰らなければならなくなりつらいと思っていたが、今はそのおかげで再会できたことを幸せだと思った。

 


 

 

こんばんは。キリコです。
SD更新はホンマにお久しぶりで…(汗)
何やら突然書いてみるかーと思った話です。
「バスケット人生」が私の初はなるですが…
あれ以降の話は、できるだけ重ならないようにと
意識してきたので…妙に力が入っています。いや本当に。
何事もチャレンジ☆と思って、怪我とかさせてみたり…
で、大人に(?)になってからデキる2人というのはあまりないと
思うので…(本ではあった) 今回トライしてみました。
ふー 展開早くて、いろいろ説明不足かと思いますが…
「実はゲイなんじゃ…な花道&やたら耳年増な流川(でも純情?)」
という2人でした(笑)

2008.1.2 キリコ
  
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