前作Twin Milkywayの後書きかどこかで触れました。敵役が弱いとどうにも話が締まらなくなります。ある同人作家さんの言葉を借りるなら、『光には影が伴い、闇によってさらに輝きを強める』のです。Twin Milkywayでは、当初は温存しておこうと思っていた登場人物を、最終的には敵役に回しました。それでも足らなかったと思っています。基本的に取り返しのつかない悲劇は書かない、のが猫の銀英伝二次創作への基本スタンスです。このスタンスを外すなら、Twin Milkywayの敵役はロイエンタールになっていても良かったかな、と思っています。と言うか、彼クラスでないとラインハルトには対抗できません。 同じくエンサイクロペディア銀英伝を眺めていて気づきました。この時期、ヤン・ウェンリーの経歴もほぼ空白なのです。第五次イゼルローン総攻撃に参加していたことは『黄金の翼』に書かれています。その前は、どうやら第八艦隊の幕僚団にいたようです。では、ここはご都合主義で、ヤンには一時的に第八艦隊に戻って貰い(客員参謀?)、ラインハルトを歓迎して貰いましょう。まさに銀英伝最強の敵役です(ヤン・ウェンリー・ファンの方々、敵役呼ばわりして申し訳ありません。どうしてもラインハルトに視点を置かないと、どうにも書きにくいので)。もちろん、オリジナルのヤンに近づけるべく、できるだけの努力は致しました。 ラインハルトに比べると、ヤンという人は、表面的な行動の描写はしやすい人です。ただ、生き方の根元というのか、行動哲学というべきレベルになると、これは逆転します。ラインハルトはまっすぐで単純。アンネローゼを取り戻したいから帝国を倒す、という一本道です。ヤンにはラインハルトの単純明快さはありません。深く書き込めば書き込むほど、難しい人柄だろうと思えてきます。ですから、今回はあくまで戦術家ヤンとしてだけご登場頂きます。 それと、ヤン・ファミリーのいない一人きりのヤンは、やはり色々難しいです。ラインハルトにはキルヒアイスがいて、言葉に出して話し合ってくれますから、シーンを作りやすいのですが、ユリアンもアッテンボローもキャゼルヌもシェーンコップもいないとなると、ヤンはひたすら黙りこくって不味いコーヒーを飲んでいることになり、書いていて気の毒になってきます。そうそう、フレデリカもいませんから、サンドイッチを作ってくれる人もいません。気の毒です(涙)。 脱線はさておき、多くの人が指摘しているとおり、ヤンはその意思決定で他者の意見をほとんど容れていないのです。言い換えれば、彼の軍事的成功はすべて彼のベレー帽の下からだけ出てきたのであって、彼を補佐する人々の衆知によってなされたものではない。従って、ヤン・ファミリーが周囲に居ないとき、ヤンは完全にただ一人で考え、決断し、実行計画を作り上げていたのです。キルヒアイスや、時に他の側近達との掛け合いによって意思決定を進めていくラインハルトに比べると、戦場を前にした場合には極めて描きづらい人物であることがよく分かりました。だからこそ、田中先生は彼の回りにヤン・ファミリーを配置したのかも知れません。 そうそう、ヤンも第五次総攻撃の時は少佐で、外伝V後半では確か中佐か大佐なのです。従って、彼にもこの前哨戦では功績を挙げて頂くことになります。相見えながら、ラインハルトもヤンもともに昇進に値するような戦いの結末を迎える……虫のいい筋書がうまくいくでしょうか。書く自信がある程度なければ着手しませんが、不安がないと言えば嘘です。 そうなんですけれどね…… 『それは宇宙暦七八八年九月一九日のことで……一六時三〇分には少佐の辞令を……(外伝四 巻頭)』。 『……もっとも短い在職期間は大尉の六時間であり、最も長いそれは少佐の三年一〇ヶ月であった(外伝四巻末)』。 ゆえに、ヤンが少佐だったのは七九二年七月まででした。今回の物語は、宇宙暦七九三年に生起した想定になっているので、ヤンは少佐ではなく中佐です。おそらくは、第五次イゼルローン総攻撃の時か、その後の功績で昇進した、ということなのでしょう。もっとも、『黄金の翼』を読む限り、総攻撃の時のヤンは特に何もしていないように見えますけれど。 と言うことで、大急ぎで現在稿のヤンに関する記述をすべて少佐から中佐に書き改めました。今回は、昇進なしで、勲章か何かをもらうことにしてしまいましょう。話の流れから言って、そっちの方が相応しい気がしますしね。 |