問題児。どのクラスにもいるものだが、この教室だけは特別だ、とすべてに教師が思っているだろう。ある意味一人は静かだ。もう一人も他方が静かならばまぁ問題なかった。
しかし、両方が起きているとき、教室は戦場と化す。その問題児達は、その長身のために、常に最後尾にいる。数少ない列で移動するため、その二人が並ぶ時もある。そんなときは、周囲への被害が倍増どころか相乗してしまう。
「流川、問3の答えは?」
予習なぞしたことあるはずのない生徒でも、まんべんなく当てなければならない教師の気遣いは大変なものである。当てられた流川は、数学の授業中、くらいはわかっても、どのページの問3なのか、わからないから答えようもなかった。
ぼんやりした様子で、教科書をめくるでもなく、ただ立ち上がる。後頭部をぽりぽりかくと、数学の先生がため息をつく。一応これで、教師としての義務は果たした、とちょっと安堵した。
ところが。
「カーーッ! やっぱキツネだもんな! 数学なんて高尚なものはムリムリ!」
大声で笑い、その大嫌いな長身を指さした赤い頭の生徒を、「棚上げだ」とクラス全員がつっこんだことを本人は知らなかった。
「…テメーは解けるってのかよ?」
流川も同じ感情しか抱いていない相手、花道に、きつい睨みをきかせる。教室の一番後ろで火花が散ったかのようだった。
「バカ野郎! この俺様に解けねーものなんかねー!」
「うそつけ」
「なんだとーーー?!」
ケンカが始まるか、と誰もが避難しようとした瞬間、教師の冷静な声が響いた。
「じゃぁ、桜木、問3」
「……えっ?」
中腰の花道は、ファイティングポーズのまま固まった。ゆっくりと首だけを黒板に向けると、先生と目が合う。そのときの花道のマンガ的に表現すると、顔中汗のマークだらけだったろう。先生は、心の中でため息をついた。
「ほらみろ、わかんねーじゃねぇか」
シーンとした時間が、流川の冷たい言葉で破られる。それは、殴り合いへのゴングとなった。クラスメイトは、諦めつつも、なぜこの二人を同じクラスにしたのか、と教師達を恨まずにはいられなかった。この教室の大喧嘩については、さすがの洋平でも止められないのだ。
どの授業でもこんな感じのため、花道と流川のいるこのクラスだけ、授業が遅れているのは会議でも問題になっている。しかし、今更クラス替えも出来ず、小さな対処法を探しつつ、早く1年過ぎるのを、皆が待っていた。ずっと眠っていてほしい、などと教師らしからぬことを願ってしまうのも、無理からぬことであると言える。
2001.6.27 キリコ