Fox&Monky


  

 桜木花道は、新年早々機嫌が良かった。
 目の前に座る不機嫌そうな、というよりは無表情でおそらくはこれが普通の顔なんだろう流川を見ながら、であっても、なんとなく気分が良かった。
 流川が自分の夢を見ているから。誕生日を教えてくれたから。一緒にお茶を飲んでいるから。
 どの事実も当てはまり、ただ一つだけが理由ではないのだが、とにかく結構いい気分になれる要素が一気に降ってきたのだ。
「オメー、もしかして16歳になったのか」
「そー」
「正月産まれなんて、なんてーか、メデてーような、一緒くたにされてそうだよなぁ」
「…何が」
「お祝いが」
 流川はコップを持ったまま、ちょっと首を傾げた。
 親戚が集まったり、正月らしいお祝いはするが、そういえば確かに誕生日らしい雰囲気はなかった。もっとも、それを本人が望んでいたわけではないので、ちっとも可哀相ではないのである。
「それよりもさ」
 店に入ってからひたすらしゃべり続ける目の前の男はうるさくて、夢の花道は正しいことがわかった。流川はスピーカのような花道に、正月早々ずっと付き合っていることになる。
「俺の夢、ってどんな? 何してんだ、俺」
「…夢ン中のどあほう?」
「まさか正夢とかいうなよ」
 そうならば、流川は花道とお茶している夢を見なければならなかったのだろうか。しかし、流川の夢の中に登場する花道は、いつも、
「バスケしてる」
 のである。ここ数日で、流川の夢の花道は、雰囲気が変わってきていた。
「バスケ? オメーとか?」
「…いや」
 自分はいるような、でもよくわからない。なんとなく、同じチームにいる気がする。けれど、
「パスもしなけりゃ、こっちも見ない」
「あん?」
「シュートも決まらねー」
 花道は乗り出していた身を少し引いた。流川の頭の中の自分は、現実の自分にかなり近いとわかる。ということは、彼の印象もその程度なのだろう。
「…そっか…」
「最近は…」
 ゆっくりと、流川は話し続けた。
「走ってる… よく飛ぶようになった。スゲージャンプ力。夢の中のテメーはな」
 少し早口になって、真正面から目を合わせた。まるでそこだけは認めてるかのような言に、花道はちょっとだけ頬が熱くなった。
 今日は、嬉しいことがいっぱいだ。
 花道がそう感じた瞬間。
「けど、まだまだだな」
 ちゃんとトドメを刺してくる相手に、花道は怒るよりも嬉しいが勝った。

「俺が払う」
 安い店の、もっとも安い値段でも、花道が流川の分を払ったことを知れば、誰もがひっくり返るだろう。
「…いらねー」
「ちっ」
 それでも結局花道が払うのだ。何しろ流川は相変わらず無銭状態で走っているから。
「しょーがねー、誕生日だからオゴられてやる」
 祝われることに落ち着かない流川は、自分に動機付ける。けれど、花道は別の言い方をした。
「バカヤロウ。これは、俺が後から着いたから払うんだよ」
 そう言いながら店を出て、花道は流川にケリを入れた。
 自分で勝手に決めた取り決めに一人従う花道に、流川は「あっそ」と鼻を鳴らした。

 

  


2001.12.13 キリコ
  
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