Fox&Monky
今晩眠って夢を見れば、それが初夢だ。花道は、1月1日の夜、ふとんに入りながら思った。
夢を見るというのは不思議なもので、自分は考えたり理想したことを夢に見る。深く短い眠りが多い中、ふと明け方に良い夢を見ることがある。それがたとえ、自分に都合のいいことでも、やはり気分いいときがある。同時に、辛い悲しいこともすぐ夢に直結する。意外といつまでも気にするタイプなのかもしれなかった。
「俺の夢…」
何度も思い出しては自然と顔が笑う。イヤな感じは受けなかった。
「夢ん中でも、どあほうとか言ってんのかな」
冷たく言い放つ様子を思い描いて、低い声を耳に思い起こさせる。
他にはどんな感じなんだろうか、バスケットをしているらしい自分をどう見ているのだろうか、そんなことが気になって、花道は目を瞑ってもなかなか眠りに落ちなかった。
桜木軍団は、いつもなんとなく集合出来る。それが自然で当たり前だった。とりあえず今年の抱負でもと花道の部屋に集まる。ランニングから戻った花道は、親友たちの出迎えに嬉しくなった。中学からの悪友たちとゆっくり話す機会が減ってきていたから。
「おっす花道。この寒いのによくそんな薄着で走ってられるよなー」
たくさん着込んだ高宮が、寒そうに肩を上げながら呟いた。
「おっかしいよなァ。お前、しっかり脂肪着てるじゃねーか。それでも寒いのか?」
からかい半分で花道はその大きく出たお腹を撫でる。他の軍団も吹き出して、久しぶりの挨拶が済んだ。ワイワイと他愛もない会話を続けているうちに、初夢を見たかという話になった。
「一富士二鷹三なすび、通りってホントにあるのかね?」
「さあ…俺はどれもないぜ」
「お前はパチンコの夢ばっか見てんじゃねぇの」
「そうそう、年末に思いっきりスッたもんな」
大きな笑いで大合唱する。たいした話題でもないのに、花道は続けた。
「あのよ…一人、いや一つのことばっか夢に見るってある?」
珍しく遠慮がちに聞く花道に、軍団全員が花道を凝視した。
「…花道はバスケの夢でも見てるのか?」
「ハルコちゃんじゃねぇの」
「いや、負けたときとか気にするじゃねぇか。だからバスケだろ」
「…で、どうしたんだ、いきなり。花道」
洋平が他の意見を流すように、核心をついた。
「俺、よくバスケットしてる夢を見る」
周囲は「ほらやっぱバスケだ」だのとまた騒がしくなる。洋平だけは、花道の次の言葉を待った。
「ゴリに怒られる夢とかも前は見たけど、最近は楽しいバスケの夢が多い」
「そっか…」
俯いたままの真っ赤な髪に、洋平は笑顔を向けていた。自分の大切な仲間がやりがいのある何かに打ち込む姿は、見ていて清々しかった。
「あのよ、洋平…」
「ん?」
「よく夢を見る、夢に出てくるって… どうなんだと思う?」
「どう、って…」
「同じ奴のことばっか、毎晩のように夢見るってどうなのかな…」
ほんのりと、髪と同じ色に頬を染めた花道に、洋平はかなり驚いた。けれど、花道は真面目らしく、洋平も茶化さなかった。
「さあ…好きな奴とか、かな」
「す、好き?」
「嫌い過ぎてもあるかもな…」
「き、嫌い…もあるか…そうだな…」
目に見えて、赤くなり青くなり、自分の言葉がはっきりと相手の感情を左右しているのを感じとり、洋平はあわてて言葉を付け足した。
「まあ…かなり意識してる、ってことだろうな。いつもそいつのことが頭にあるんじゃねぇか」
花道は勢いよく顔を上げた。
ようやく普通の顔色に戻り、謎が解けた顔をした親友に、洋平は苦笑した。
「意識…か。そうか、そうだな。うん」
「花道、お前誰の夢見てるんだ? ハルコちゃんか?」
「いや…正月からこっち、ルカワばっかなんだ…。あ、こ、これは、嫌いだから見るって夢だぜ、きっと! うんそうだ!」
洋平も、やっと会話に参加していた桜木軍団も呆気にとられた。花道は、「嫌い」を連発しながら、また頬を赤くしていたから。
その後、花道がどれだけ天敵の悪態をついても、桜木軍団の面々には「意識しすぎ」としか思えなかった。けれど、知り合った当初からそうだったと全員が心の中で頷いていた。
「いつもそいつのことが頭にある」という洋平の言葉を、花道はついに否定しなかった。