Fox&Monky
寒く暗い部屋で、流川はぼんやりと目を覚ました。
いつものベッドではなく、畳にふとんという寝方が合わなかったのか、それともこの部屋が寒すぎたのか、珍しく流川は夜中に目を覚ました。
変だなと思いながらも、その答えを出す前に尿意を催した体は動く。脳みそは活動を拒否しているらしく、ここが花道の家だという事実以外、あまり思い出せないでいた。
ふとんに戻った流川は、自分がいたふとんが冷たくなっていることに気付いて舌打ちする。潜り込んで、出来るだけ体を小さく丸めて眠ろうと努力する。いつもそうしていた。
けれど、今日はすぐ近くに規則正しい寝息があって、気にしなくていいはずなのに気になった。流川の心情としては、耳障りなのである。自分が眠れないでいるのに、相手だけが心地良く眠っている。睡眠をこよなく愛する流川は、許せなかった。
けれど、目は開かなくて、眠くてたまらない。手足の冷たさや震える体さえ落ち着けばまたグッスリと眠れるのに、と寝る前とは違うことを心の中で呟く。
少しでも暖かくしようと、両手を脇に挟み、両足を擦り合わせる。冷たいだらけでは、あまり有効ではなかった。
背を向けた後ろから、静かな寝息が聞こえる。そちらは暖かいということなのだろうか。流川は足の動きを止めた。
相手があの花道だということを忘れて、流川はとにかく温もりたい一心で無意識に動いた。重ねられた両足に、自分の足を強引に絡ませる。そこまで行かなくても、隣のふとんは暖かく、流川の強ばった筋肉が溶けた感じがした。
「…ったけー」
ちゃんと寝言になっていたのを、本人も隣人も知らない。けれど、溶けたのは足だけではなく顔の筋肉もこの瞬間緩んでいた。
冷たいものに割り込まれた花道は、眠りながらも驚いて逃げようとした。けれど、すぐに諦めた。この時の、この冷たいものが天敵の足だとは気付いていなかった。
後はもう吸い寄せられるように、流川は隣のふとんへ移動する。体全体が温まり、残る冷たい両手を花道の両脇に差し込んだ。
広い背中の真ん中あたりに額を押しつけて、くっついて眠り込んでいた。
二人のこのような姿は、本人達も含め、誰も知らないことだった。
しばらくして、気の済んだ流川はそのふとんの中で寝返りを打ったから。
朝方、花道は目覚めたとき、自分のふとんに人がいて、とにかく驚いた。
「な…なんでテメー、俺ンとこで寝てる…」
最初は大きな声で、けれどだんだん小さくなっていった。
上からのぞき込んで見ると、あちらに顔を向けて穏やかに眠っていたのだ。流川の寝顔なぞ珍しくもないが、なんとなく花道は照れ始めた。何しろ、こんな至近距離でくつろぐ天敵の姿を、初めて見たから。
「や、やっぱり寝ギツネじゃねぇか…眠れねーとか言ったくせに」
自分も熟睡していたけれど、相手のことだけ悪態をつく。この習慣に関しては、花道と流川は間違いなく似たもの同士だった。
自分が動いても目覚めない様子に、花道はまたふとんに戻った。
「外は雨だしよ… いくら天才でも練習出来ねーから寝る」
目を閉じると、まだ降り続く外の雨と、ふとんの中の温もりだけを感じる。花道は、人と一緒に眠ることがこんなに気持ち良いことだと知らなかった。たとえ相手があの流川でも、である。
「…ったけーなぁ…」
流川に背を向けるように寝返り、花道はふとんを引っ張った。けれど、すぐにふとんを戻す。何しろ大男二人で入るには小さすぎるふとんであり、取りすぎると相手が無防備になってしまうのだ。
「ちっ 何で俺が」
文句を言いながら、花道はわざわざ流川にふとんをかけてやる。そんな優しさに流川は当然気付いていない。
夢の中の届かない存在は、取り敢えず今は近しい気がする。花道は、バスケット以外でこれほど流川と接近するとは思っていなくて、呆れるよりも笑いが出た。
「何で俺、コイツと寝てんだ」
答えの出ない疑問符を口に乗せて、花道は目を閉じた。