Fox&Monky


  

 なぜなのか、というのは深く考えなかった。追求もしなかった。

「お…もうこんな時間か…寝なきゃな。オイ?」
 花道は、隣で座っているはずの流川に声をかける。時刻は新しい日付になって2時間以上経っていた。
「って何だ…もう寝ちまってたのか」
 石油ストーブだけでは肌寒い部屋の中、流川は毛布にくるまってすでに静かに寝息を立てていた。かなり集中して見ていたビデオを止め、自分も大きな欠伸をする。
「先にふとんに入りゃいいのに」
 目に涙を浮かべながら、花道は流川の体を引きずった。
 一度泊まって以来、特に約束もなく、流川はふらりとやってくるようになった。それは気まぐれで、平日も休日も関係なかったが、必ずその手にビデオを持っていた。
 横たえてふとんをかける自分を優しいじゃねぇかと褒めつつ、毎回毎回同じことを繰り返すその挙動にため息が出た。
「起きてる間はいろいろ聞けるからいいけど、寝るなら帰りやがれ」
 小さな声で毒づいても、相手はピクリとも動かない。その無防備な姿は、昼間の、特に学校にいる間の流川とは別人だと思わせた。部活中は相変わらず口ケンカばかりだった。無愛想で無口で、口を開けば辛辣なことばかりで、バスケットは上手いらしいけれど、なんとなく冷たい印象がある。女の子に人気があるのはよく知っていたが、花道には精神的にも物理的にも遠い存在だった。
 考えてばかりいると眠気が薄くなってくる。花道は閉じた瞼に力を入れた。
 理由もなく天敵と感じ、顔を合わせれば文句を言わなければ気が済まない。いなければ清々するはずなのに、なんとなく気にしてしまう。けれど、理解できない相手という点ではピカイチで、本当に同い年の男なのかと疑問に感じていた。けれど、
「だんだんニンゲンになってきたぜ…」
 学校生活以外のほとんどを一緒に過ごし、寝食もたまにとはいえ共にすると、普通の人間なんだと思えるようになった。花道は漠然と感じていた。
 くつろぐ相手も変だけれど、同じくくつろいでいる自分もかなり変だった。その理由を考える前に、花道は眠りに落ちていった。


 花道は、たいてい流川よりも先に目覚める。そのまま起きることが多いけれど、二度寝する時もある。
 うっすらと開けた瞼に、真っ黒いサラサラの髪が当たる。遠慮なく入り込むそのチクチクに目がかゆくなる。
「ちっ またかよ…」
 もう慣れてしまったが、最初はかなり驚いた。それだけでなく、眠る相手を蹴飛ばしながら自分もふとんから飛び出てしまった。しかし、花道がふとんの中にいる間に、流川が目覚めたことはなかった。
「どーせなら、ふとんごと来やがれ…」
 毎回同じことを呟きながら、花道は自分のふとんを相手にかける。そして自分のために、流川が寝ていたふとんを引っ張る。冷たいふとんに体が一瞬縮こまるけれど、すぐそばに温もりがあって、花道はそれで十分だった。
「なんなんだよ、テメーはよー」
 今日は寝ようと決めた日は、花道はそのままでいることにしている。この流川を起こすのはメンドウだったし、自分も温もりの方が有り難いので動かない。
 掛けぶとんは2枚でも、1枚の敷きぶとんの上に190cmが二人、抱き合うように眠る。そんな習慣を花道は改めようとはしなかった。

 

  


2002. 1.22 キリコ
  
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