Fox&Monkey


   

「酒は飲んでも呑まれるな…か」
「…花道?」
「あ、いやっ 何でもねー」
 春休みの登校日、花道は桜木軍団とのんびりしていた。
 若い食欲を満たし、暖かい爽やかな日差しを受けながらのセリフにしては、ずいぶんオジサンくさい、 桜木軍団は心の中で同じ思いだった。口に出すと頭突きがきそうで、黙っていたけれど。
「なんか…花道、朝からため息ばっかじゃねぇか」
「なぁ…めでたく2年生になれたってのに」
「ハルコちゃんと何かあったのかな」
「いやアイツに告白する勇気はないだろ。おおかた、ルカワとケンカしたんじゃねぇの」
「えー、今更ケンカくらいで…」
 ワイワイと勝手に想像していた軍団の言葉尻に、花道の肩がビクッと振るえた。その反応に、その場が固まってしまった。
 先日軍団が見た花道と流川の様子はおかしかった。仲良しでもなさそうなのに、流川は花道のアパートに来た。それはどういうことなのか、4人がそろって同じ疑問を浮かべたが、納得いく答えも見い出せず、かといってそれを本人に尋ねる勇気もなかった。
「…じゃ、じゃぁまあ花道が酒を止めるなら、今度から誘わねーことにするな」
 乾いた笑い付きで言われたことに対し、花道は気遣いを感じながらもキレた。元の、いつも通りの花道に戻ることが出来た。


 あれ以来、また流川はふらりとやってくるようになった。そのことに関しては、特に迷惑だとも嫌だとも思っていないのに、ときどき困っていた。まだ朝晩は冷え込む春に、寒がりらしい流川は相変わらず人のふとんに進入してくるのだ。
 特に意味はないらしい、というのも変だと花道は感じていた。ただ寒いから、以前のようにくっついてくるだけ。しかし、花道はもう以前のように平気でいることも出来ず、妙に意識してしまっていた。
「…やっぱ覚えてねーんだろ?」
 肩に掛かる頭の重みに小さく話しかけるけれど、反応は全くない。
 覚えていたら、あんなコトをした後なのに、平気でいられるはずがない、花道は眠れない夜を過ごすようになってしまった。
「だいたいよー、テメー俺のこと、ムシしてたじゃねぇかよ」
 いろいろ考えて、思い出しては腹が立った。苛立つことばかりだった。
「なんでキゲン良く来やがるんだってーの。…変なヤツ」
 いつの間にか声に出してしまう文句は、完璧に花道の独り言で、それが聞こえる範囲にいる相手は気づいたことはなかった。
「…ちっ もーヤメヤメ。考えねーぞ、俺は」
 花道は、お互いの髪が触れる程度に首を傾けた。
「……俺は酔ってたんだ。…だから、忘れるからな」
 そう言い聞かせなければならないほど、花道の心理は追いつめられつつあった。
 花道自身、なぜこんなにも意識しているのかわからないくらい、全身で流川のことばかりを考えていた。

  



2002.4.27 キリコ
  
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