Fox&Monkey
花道と流川の日課は、お正月あたりから変わっていなかった。県大会が始まったことで、意気込みだけは違っていたかもしれない。海岸まで走りに行く回数は確かに減った。しかし、相変わらずよく走り、よく眠り、勉強もせずにひたすらバスケットに打ち込んだ。ほとんど一緒に、である。
昼間はすでに初夏を思い浮かべるような暑さで、けれど夜はまだ涼しい春の終わり。上着などの衣服に注意すべきこの時期に、花道は全く無頓着だった。元々暑がりで、冬でも薄着するタイプだったから。
この時期、眠っている間に花道はふとんを蹴飛ばしてしまう。明け方につま先が冷たく感じて目が覚める。そんな毎日だった。
しかし、今年は勝手が違っていた。どこか肌寒いためか、相変わらずふとんに客人が潜り込んでくる。熱いとまでは思っていなくても、寒くもない夜に、わざわざ人の体温で温められる。花道には、迷惑以外の何ものでもなかった。そう思いながら深い眠りについて、朝の冷え込みにも目覚めなくなってしまった。ふとんがなくても、温もりを半身に感じるからだろうか。「ゲッ もうこんな時間か。オイ起きろ、キツネ!」
自分に巻き付けられた長い腕を、花道は毎回顔を赤くしながら慌てて解く。一度触れると、後はもう慣れっこらしい。体が密着するのも、夜の間はいつものことだった。けれど、素面ではまだ落ち着かない。
「…ねみー」
「朝練しねーのかよ、置いてくぞ、この野郎」
流川が泊まった朝に、必ずされる会話だった。判を押したような反応に、律儀に答える花道だった。
「……オイ、起きねーにしても…」
押しつけんな、という言葉は自分で押さえた手の中だけで呟いた。
「…スル」
「……チクショウ…」
これは、ときどきしかされない会話だった。
男だもんよ、肘をついた花道は大きなため息をついた。
男だから仕方ない、とは思う。思うけれど、なぜ自分と…いやそれよりも、なぜ流川なんかと、と心の中で毒づく。黒板の前で世界史のどこかを説明するのをバックミュージックに、花道は窓の外へ顔を向けた。
あの酔っぱらった夜に近づいた自分が悪い、そう思った花道はどこか遠慮しがちだった。そのことに関してだけ。ほんの時たまとはいえ、桜木軍団とすらしたこともないような行為をしてしまうのか。拒絶しきれない自分が不思議だった。そして、逃げるどころか平気で泊まりに来る天敵も理解出来なかった。
「別に…気持ち悪ぃわけじゃねぇんだけどよ…」
それどころか、全く逆だからこそ、花道は困っていた。考えいるうちに、食欲も満たされた若い体は他の生理的欲求を訴え始める。
浅い眠りの中で、花道は考えていた相手の夢を見た。
「…それは俺のパンツだ…」
そんな寝言をはっきりと口にしてしまい、クラス中が凍り付いたことを張本人だけは知らなかった。
眠る前に、知っていく相手について箇条書きにしていたのだ。例えば、流川の下着、流川の分身の形や大きさ、匂い、胸毛はないこと、肌は…などを、思い出していた。そして、こんなことを知っても、天敵を理解するのには役立たないこともすぐにわかった。