Fox&Monkey
寝ぼけているときと酔ったとき、互いの性を開放し合う。それは、約束でもなく、たいして不自然とも思わず、ストップがかからない以上、日常のひとつになるのは時間の問題だった。
流川は、はっきりと意識のある今、覆い被さる熱く重い身体を感じながら、そんなことを考えていた。
実は流川自身には、最初の夜の記憶は曖昧だった。
頭痛と吐き気という二日酔いらしい自分を初めて体験して、そのことで頭がいっぱいだった。けれど、吐くものを吐いて、ほんの少し楽になったとき、鏡には見なれないものが映っていた。
首筋やら胸元にある痣が、昨日までは存在しなかったものだと知っている。そっと指で撫でてみても、痛みは感じなかった。ということは、
「打ち身…じゃねぇ…」
首を傾げて、ポタポタ落ちる水分を払おうとした。けれど、ズキンと痛みが走ってまた洗面所に屈んでしまう。
自分でつけられる場所ではないのだから、犯人はおそらく一人。
驚いたのは、怒りが込み上げるでもなし、嫌悪するでもない自分だった。
そして、自分とだけするコト、という要りもしない独占感に浸っていたのだ。しかし、今の流川は眉を寄せるばかりだった。
朝の生理ならば、盛り上げなくてもソコだけが他人のようだった。だから、今夜のようにこれから元気にしようと思っても、いきなり常識やら理性やらが邪魔をする。そしてそれは、どうやら花道も同じらしかった。
流川の男を力強く握り締める。痛みでかえって反応しないソレに、ますます花道は落ち着かない。もっとも、冷静な状態でもないのだが、いつものようにリラックスした状態ではない流川に、花道も戸惑うばかりだった。
けれど、引っ込みのつかないところまで来てしまっていた。
どうしていいかわからずに、花道は流川の首筋に噛み付いた。
「…ってぇ」
流川が手で肩を押すと、花道はまた同じところに同じことをする。流川にとっては首筋も下半身もどちらも痛かった。
止めるどころか、反対側の首筋まで歯を立てられて、いい加減キレはじめた流川が仕返しをする。全く同じことを、同じ場所にやりかえした。
「イテッ」
「…いてーだろ、どあほう」
首筋を抑えた花道は、緩く撫でながら流川を見下ろした。もっとも真っ暗で相変わらず見えないのだが、荒い呼吸ははっきりと感じる。睨んできているのも見える気がした。
その呼吸だけ聞いていると、ただ興奮しているようにしか聞こえない。もしかしたら怒りによるものかもしれないが、花道はそこまでは考えなかった。
右手で掴んだままだったソレに、自分のを近づけると、想像以上に流川全体が飛び跳ねた。その分身も、花道と同じ反応をする。そのことに、妙に安心した。
いつも流川はシーツを指を絡ませる。声を出すまいとしているのか、顔を枕に埋めようとする。そんな相手に、花道はいつも自分に向けられた耳に口を寄せる。息を吹きかけると、肩も分身も震える。花道がイくときは、その肌に直接快感を伝える。そして、小さな痕が今でもしばしば出来てしまうのだ。
「花道、流川、ケンカか?」
部活前に宮城が問う。誰もが聞きたかったことを、代表らしく腕組をしながら。
「いや…ケンカ…ケンカ、かな」
ボソボソと答える花道の隣で、流川は知らん振りしてあちらを向く。二人の首筋には似たような歯型が並んでいた。
詳しい説明がそれ以上ないことを察した宮城は、大げさなため息をついて大声で言う。
「お前ら、ガキのケンカじゃねぇんだぞ」
なに噛み合ってんだ、と宮城は真剣に呆れていた。