Fox&Monkey
「テメーッ! このくそ大事なときに何ケガなんかしてやがンだっ!」
振り返らない流川の背中に、花道は怒りをぶつける。けれど、花道も流川の顔をみようとしなかった。ただ、試合の後からの心配やら不安やら怒りやら、いろんな思いをいろんな言葉でぶつけたかった。
「い、いくら俺が天才でも、俺がいくらガンバっても、ダメだったんだよ、こんちくしょう!」
花道はだんだん俯いていく。
「…リョーちんたちには最後の夏だったんだ…もうちょっとだったのに…よ…」
試合終了のブザーを思い出して、花道はまた顔を上げた。
「わかってんのか、このバカっ! テメーは湘北のスタメンなんだ! い、一応だけど。
リョーちんたちはみんなお前に期待してたっ! キャプテンも交代だっ」
話があっちこっちに飛ぶ。花道がまとまりなく思いつくまま口にしていた。
「き、聞いてんのか、キツネ! テメーは反省してンのかっ! どんくせーことを謝る気あるのか?! なんとか言えよっ」
花道は、やっと流川の横に走り寄った。勢いで肩を引きそうなくらいだったのに、自分の腰あたりにある頭がいつもより小さく見えて出来なかった。
「テメ、寝てンの…か…」
上から見下ろしても顔が見えなくて、花道は屈んだ。車いすのホイールに手を乗せて、花道は2週間ぶりにその顔を見た。
「ル…」
花道は、初めてそんな表情を見た。
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無表情なのに、遠くを見ている瞳は何も映してなくて、涙がつたっていることすら当人は気づいていないようにも見えた。
「ル…カワ…」
一方的に攻撃した自分を、花道はいきなり反省する。本心だけれど、まだ入院中の身にはキツかったかと花道は眉を寄せた。
けれど、意外な言葉が発せられて、久しぶりに聞く声は乾いていると感じた。
「…もっと…」
「……はっ?」
「…もっと言えよ。もっと責めろ。どんくせーって嗤え」
花道は次々に出てくる言葉に唖然とする。この自分にそんなことを頼むとは、これはで想像したこともなかった。
「……テメ…頭、打ったんだっけ?」
それくらいしか、花道には考えられなかった。
「いいから早くっ」
流川が怒鳴って、両手で顔を覆った。自分の膝に腕をついて、小さく丸まろうとしているようにも見えた。その背中が震え続けているのを、花道はしばらくじっと見ていた。