Fox&Monkey
そろそろ秋の空らしくなってきたけれど、昼間の日差しはまだ夏の名残も感じられる。屋上で昼寝するには絶好の日和に、花道は授業をさぼって外へ出た。
グラウンドで体育をしている声が聞こえ、ときには空から飛行機の音も聞こえる。
ぼんやりと静かな時間に、花道は天敵のことを考えた。「あんだかなー」
なぜまたこんな関係になってしまったのだろう。なぜ嫌だとは思っていないのか。
「あんなキツネやろう…」
口ではそう言いながらも、夢にまで見るくらいに考えている。そのことを、心の奥底だけでは認めていた。
「別にスキでもねー」
花道は眉を寄せる。好きなのは晴子であり、流川に対しての思いはそんな優しいものではない。喧嘩ごしだったり、ムカついたり、イライラすることの方が多い。
「そっか、そういう意味で考えてんだな。うん」
空に向かってぼんやりしているつもりだったが、花道は一人百面相をしていることに気づいていなかった。
「……どあほう」
「なにっ」
振り返らなくても、声でわかる。そのセリフを自分に向けるのも、一人しかいない。自分と同じくさぼり魔だから、こんな日は屋上に来るのも不思議ではない。
けれど、やっぱり花道はすぐに振り返った。
ドアあたりに立っていた流川はゆっくりと花道の方に向かう。隣に座るのかもと構えた花道は、流川が少し離れたところで横になって驚いた。
「けっ 寝ギツネめ!」
「……ウルセー 安眠のジャマ」
「俺の方が先客なんだ。ほかを当たりやがれ」
ツーンとそっぽを向いたまま、流川は動かなかった。
衣替えしたばかりの学ランは、以前よりもツヤツヤして見える。花道は、流川の背中を見つめていた。「別に…今もしてぇ…とか思うわけでもねーんだよな」
いつでも流川に対してそんな気になるわけでもない。流川の背中にも、綺麗な顔にも欲情するわけではない。
「ハダカ…も…単なる男だしな」
誰のモノでも、見たいとは思わない。流川の分身もあまり見たことはない。触れたことも、信じられないくらいだった。
「ま、ホモじゃねーしな」
流川の全裸を思い浮かべても、自分は何も感じない。そのことに、少し安心した。
けれど、夜の自分は間違いなく流川を欲した。ほぼ全身に手で触れて、唇を這わせた。自分が与えた行為への反応が、嫌悪ではないことがまた拍車をかけた、と花道は思っている。
「あんな声出すから…」
およそ本人から出た声とは思えないその喘ぎを思い出し、花道の心臓がドキリと跳ねた。
顔を見たいわけでもないけれど、寄せられた眉や力強く閉じられた瞼や、ときには浮き出る目尻の涙を、花道は鮮明に思い出すことが出来た。
そして、座っている自分の下半身に気づき、叫び声をあげた。
「うぎゃーーーーーーっ なんだこれは!」
その声に、流川が首だけで振り返った。
「…テメーさっきからブツブツうるさい」
「なっ いや、お、起きてたのか、オメー?」
「……うるさいから眠れねー」
そう言いながら、流川は大きなあくびをする。
自分の下半身を隠しながら、花道は緊張で固まっていた。けれど、天敵はリラックスしている。ならば、ばれていないのだと安心もした。
また同じ姿勢でくつろぐ背中を見つめながら、花道は後ろさを感じた。
同時に、青くなっていた。