Fox&Monkey


   

 目が合ったとき、互いの唇は1cmほどしか離れていなかった。
 流川は、自分が花道に覆い被さっているという事実に驚いていた。
 花道は、生まれて初めて触れられた事実に、ただ目をむいていた。
 一瞬なのか、一分なのか、もしかしたらそれ以上の時間、どちらも動くことが出来なかったけれど、先に呪縛から逃れたのは花道だった。
 花道は、大きな手のひらで、まるでバスケットボールをバウンドさせるように、流川の後頭部を自分に引き寄せた。そこに考えが働いていたわけではなかった。
 急にそうされると、流川は反射的に花道の手に逆らおうとする。けれど、首をあげる前に、勢いでまた唇が触れた。そのときは、ガツンという音とともに、お互いの歯で傷つけ合った。
「いって…」
「ちっ」
 そんな言葉で、二人は少しいつもの二人に戻った。ほとんど背を向け合って座り、傷ついた部分を無意識に手で触れていた。熱いと感じるのは、痛みからだけではないと、花道は思った。
 今のもキスというのだろうか、花道は真面目に考えた。けれど、まさかあのキツネが、という言葉がすぐに浮かんだ。唇以外には、たくさん口付けている事実を、花道は考慮していなかった。
「…ヘタクソ」
 背中から聞こえた小さな声に、花道は自分の耳を疑った。
「……はっ?」
「初心者」
 振り返った花道の顔を、流川はグイと引き寄せた。
「て、テメー! ケンカ売ってんのかっ」
 花道の唇が「か」の形のまま、流川はそこを目指した。目を開けていると、度アップになる天敵の顔が見えすぎて、それが嫌で目を閉じた。だから、少し標的はずれた。
 尖らした上唇に、間違いなく柔らかいものを感じて、花道はまた固まった。
「…ル…」
 花道が問いかけようとする前に、流川は自分の首筋を差し出した。
 次々に用意される展開についていけない花道は、頭にクエスチョンマークをつけたまま、慣れた行為をしてしまう。唇で触れた流川の白い首筋からは、汗の味がした。
 そして、乱暴に顔を上げられ、真正面から真っ黒い瞳が花道を見つめた。
 自分は吸い込まれた、と花道は後から思った。
 落ち着いて触れたそこは、乾燥している花道と違い、少し潤いを持っていた。一度触れて、離れて触れて、を繰り返していると、先ほど出来た流川の傷がわかった。血の味を感じると、人は同じことをしてしまうのかもしれない。花道は、流川の下唇を舐めあげた。
「なあルカワ…テメーケガしてんじゃねぇか…」
「…テメーのせい」
 それらの会話は、半分は口腔内に直接伝えられる。
 新たに浮上した、接触可能な場所に、お互いが夢中になった。
 昼間だということも忘れて、性急に服を脱がせ合った。


 流川が、最初はともかく、自分からキスしたのだと気づいたのは、コトが終わってからだった。何度思い返しても、自分から誘ったとしか思えない。驚愕という言葉がぴったりだったけれど、後悔していない自分にも驚いた。触れることに慣れてきていたけれど、なぜどこまでも許せるのか、ということの答えは見つけられなかった。

 

 


久しぶりがこれですか。これなんです。これですとも…(シーン)

2002.10.3 キリコ
  
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