不思議な感覚

 

「……オイ…」
 いくら俺がそっちの話に詳しくなくても、男だ。男の生理はわかる。
 密着させた身体全体の中で、一部分だけ異様に熱く感じる。これが何なのか、わからないほどバカじゃねー。
 桜木も、ハッとして腰を退く。いったい何を想像してやがったんだこの野郎。
「…オンナに縁がねーからって、俺の前でおかしな想像するんじゃねぇ」
 誰のことを考えていたのか知らねーが、俺を抱きしめながら違う人を想う、ってのは失礼じゃねぇか。せっかくさっきまでいい気分でいたのに、ぶち壊された気がする。
 最近、桜木といると、こういう浮き沈みが激しい。なぜなんだろうか。
「ち、違っ、そのっ、コレは…」
 それ以上の説明を待たずに離れようとした。眠くなかったら速攻帰っているところだ。こんなときでも俺は眠気には勝てず、自分一人のスペースを確保しようと努力した。
 ところが、力では叶わないらしく、俺は腕の中から脱出出来ない。
「おめーが悪いんだっ!」
 俺の耳元で怒鳴る。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ。と、心の中で文句を言ってから、言われた言葉の意味を考えた。
「…てめー。人のせいにすんじゃねー。離せよ」
 そもそも抱き合ってんのはおかしいんだ。どあほう。
 こんな、おかしな状況でも、俺達はどちらも言葉が苦手で、きっと殴れるならそうしていただろう。しかし、桜木は、言葉を選んだ後、キスしてきた。
 これまでの、触れるだけとは明らかに違う、しつこく、熱く、いつまでも離れていかない。驚きの声を挙げようとして開いた口の中に、もっと熱いモンが飛び込んできた。
 向かい合っていたのに、いつの間にかほとんど上にのし掛かられ、両腕で背中を叩いてもコイツは動じなかった。唇も、舌も。俺の背中に回されていた両腕をせわしなく上下させ、熱い手のひらで撫でさすられる。少しでも呼吸しようと、一瞬離れる口で「ヤメロ」を連発した。
 とにかく熱いのだ。ヤツより冷たい俺の熱を上げようとしてるかのように、全身が動く。
 俺は、簡単に発熱した。

 自然と首が仰け反って、そこに熱い唇が触れてくる。逃げようと横を向くと耳に来る。体はぎっちり押さえ込まれ、首ばかり逃げようとする。どこまでも口も唇もついてきて、俺を追い上げる。
 耳の裏あたりに音を立てたキスが来て、信じられないような声が出る。
「……
ふっ…」
 自分の声に驚いて、俺は慌てる。桜木は、聞こえていないかのように、そのままキスを降らしてくる。いったいどうしようってんだこの野郎。
 トレーナーの下から熱い手が入り込む。何の役にも立たないと思っていた器官が意外な刺激をもたらし、俺は声を抑えることに必死になる。ヤメロと言いたいのに、口からはおかしな嬌声ばかりが飛び出し、それすらも嫌で唇を噛んで堪える。
 桜木は、やはりというかついにというか、オレ自身に直接触れた。ギュッと握られて、痛いのにおかしな反応しか出てこない。俺は、どうしちまったんだろう。
「…や、め…」
 苦しげな声が荒い呼吸の中で出てくる。まともにしゃべれない。
「…ルカワ……」
 あれから初めて話しかけてきた桜木の声も、初めて聞くような声だ。苦しいのは俺の方だと思うのに、上擦って、少し掠れていて。さっき感じたオトコの桜木でわかっていたことだが、コイツは欲情してるんだ。そして、どうも相手は、この俺らしい。
「ルカワ…ルカワ……」
 何度も何度も俺を呼ぶ。気安く呼ぶんじゃねーと怒りたいのに、何も言えない。その掠れた声が、俺の下半身に直撃したからだ。握られたソレが一瞬で大きくなったのが自分でわかり、よりによって、コイツの見られるのは、たまらなく情けない気がした。

 もう、眠気も吹っ飛び、俺は熱い手をアツイオレで感じ、桜木にしがみついた。

 のし掛かってくる桜木は、自分のとオレのとを合わせ持ち、力強く揺すってくる。
 俺は、というと、声を必死に押さえてただ桜木の首に腕を回していた。
 いったい俺達は何をしてるんだろう、という疑問は、これまで感じたことのない強烈な快感の中に消えていった。
 唇を切れるほど噛んだままイッた俺に続いて、コイツもイく。
 首を仰け反らせて波が落ち着くのを待ち始めた俺の耳元で、桜木が意外にも優しい声で俺の名を呼んだ。

 俺達は、後かたづけもせず、そのまま折り重なって眠りに落ちた。

 

 

 

2000.9.28 キリコ

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