教えてくれよ

 

 なぁ洋平…

 最初から思ってたんだ。第一印象は最悪なのに、いつも気になって、目が離せなかった。ずっとずっと目が追いかけてしまって、自分でも気づかないうちに見つめてしまっていたこともあった。
 本当は、大嫌い、だと思ってたんだ。

 なぁ洋平…

 アイツといて、穏やかな気持ちになることなんかねぇんだ。どっちかってーと、緊張感が増す。春子さんの笑顔を見ているときのように、安心して平和でほんわりした気分にはならねー。
 なのに、一緒にいたい、って心が訴えるんだ。

 

 いつも、俺の前を進むアイツ。叶わない、という言葉は言葉にしたくなくて、でも実際追いつけなくて自分に悲しくなる。
 なんでもっと早くアイツに出会わなかったのか。
 なんでもっと早くバスケットはじめなかったのか。
 常に、アイツの背中を見つめてしまうほど、実は憧れて、尊敬して、あんな風になりたいと思っているのかもしれない。いや、俺はアイツを追い越すんだ、と高い目標を持っているが。着々と先へ進むアイツに、いつか肩を並べられる日が来るだろうか。

 いつから、こんな気持ちになっていたのか、自分でもよくわからない。
 リハビリの時、コートに戻った自分を思い浮かべると、必ず俺はアイツとバスケしてた。
 アイツと、バスケをしたくて、俺は努力した。戻って来たいと思った。
 あのハイタッチの、手の感触が忘れられず、アイツの手を握りしめたかった。
 疲れていても、キレイな顔してるアイツに触れてみたかった。
 俺より小さい口に唇で触れて、口付け返されたら、胸がアツクなるんだ。

 
 こんなこと、したかったわけじゃない。
 目が覚めて、汚れた腹を出したまま眠るアイツを見て、俺は泣きそうになった。
 俺は、ルカワを汚したかったわけじゃない。

 なぁ洋平…

 俺、どうしたらいいんだろう。教えてくれよ。

 

 俺は、泣きながら熱いタオルでルカワの腹を拭いた。
 ルカワ自身を拭くために握った瞬間、オレが反応したことに嫌悪した。
 こんなときでも体は正直なのか、と自分で呆れ、トイレに駆け込んだ。

 そのまま、手も顔も洗わず、俺は朝日の中に飛び出した。

 

 

2000.9.28 キリコ

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