ワンパターン
桜木は、初心者への指導に熱心だ。一年前の自分と重ねているのかもしれない。
「おめーら気合い入れてやれば、天才の俺ほどではなくても俺みたいになれるぞ!」
そんな言い方で、励ましてる、つもりなんだろう。
新入部員の初心者は、始めは真っ赤な髪の威圧感ある桜木を上目遣いで見ていたが、気さくな先輩だと思ったのか、素直に言われた通りにやっている。
正直なところ、どんな初心者も、桜木のようにはならない、と思っているが、諦めずにやり続けろと言いたいのは俺も同じだ。やる気がねーヤツは、俺は好きじゃねー。バスケの技術はともかくとしても、桜木は面倒見が良く、部内を明るくするヤツなんだと気づく。宮城キャプテンの練習が甘くなったわけでもないのに、今年は新入部員が辞めないからだ。辞めてほしいと思っているわけではないが、桜木がいるからじゃねぇかと思ったことが何度かある。部活中にうるせーと思うこともあるが、大声で励ましたり、先輩とじゃれあったり怒鳴り合ったり、厳しい中に笑いを作るのだ。あまり計算してやってるようには見えないから、たぶん天然なんだろう。
それと、去年インターハイ出場、という実績があるから、だろう。先輩から、それだけでなく、他校の連中も桜木を気にかけているようだし、そして後輩に慕われ、コイツはいつも人の中心にいるのだと思う。それは、思うのも嫌なのだが、人柄、ってヤツなのだろう。あの水戸だってそうだ。
俺は、というと、そんな桜木を見て、これしか言わねー。
「サボってんな どあほう」
そして、アイツは怒りながら、俺にだけ意識を向ける。それがおもしろくて、何度もやってしまう。その後けんかにならないと、かえって落ち着かない。
「…なぁ……」
部活の後、居残り練習もそろそろ終わり、という頃に、桜木はこう話しかけてくる。たいていは、けんかした後だ。
俺はというと、黙ったまま自分のボールを片づけて先に部室に戻る。後かたづけをした桜木は、ブツブツ文句を言いながら後から着替えにやってくる。
冬よりは明るくなった夕方も、今ではもう暗くなりかけていて、俺の自転車を押す桜木と、その後ろに続く俺は、その暗い中を歩く。
俺達は、明るい中ではこういうことはしない。
夜だけの関係、という言い方があてはまるような仲ではないが、昼間と夜と、いや二人きりとそうでないとき、という方が正しいかもしれないが、二人とも二重人格のような気がする。昼間、大勢の人といるときの桜木は、明るくてよくしゃべるし、俺がいたら賑やかにけんかする。それが、二人っきりになると本当にしゃべらない。俺は、いつも変わらないつもりだが、それでも桜木とのことを誰にも知らせないようにするあたり、どこか変だと感じてはいるのかもしれない。それは桜木も同じだろう。決して人前では仲良くしたりしねーし、話しかけても来やしねー。桜木が、オレを掴んで、一瞬体に力が入った。考え事は出来なくなる。
単なる「かきっこ」なら、そうすればいいものを、コイツは俺の全身に口付ける。時々音を立てるので、聞いていられなくなりいつも耳を覆いたくなる。顔を背けると、耳元で必ず俺を呼ぶ。
「俺はオンナじゃねー」
だから、SEXのような真似はヤメロ、と最中に何度も言っている。そうすると「知ってる」と言わんばかりにオレをギュッと掴む。
「…ふっ…」
とかいう自分でも聞いたことのない声が出て、俺は歯を食いしばる。シーツを掴んでいる指に力を込める。コイツが、何もしなくていいと言ってから、俺はただされるがままだった。しかし、2回に1回くらいは、桜木は俺の腕を自分の肩に乗せる。大きくため息をつきながら。
もしかして、それくらいはしてほしかったのか、と首を傾げ、今日はパターンからはずれてみる。途中から俺が両腕を首に巻き付けるように伸ばすと、桜木が体を固くした。ついでに合わさっていたソレも大きくなった気がする。おもしれーと思った。
俺達のすることは、とにかくワンパターンだった。部屋に誘われるところから。いやもしかしたら、俺が誘われるようにけんかをしかけてるのか? いや、別に俺はこうしたいわけじゃねーと首を振る。それでも、こういう時間は無茶をしない桜木に、俺はまかせっぱなしだ。ずっと背中をシーツにつけたまま、頭も枕から動かさない。俺の上を動く桜木の流れが同じなのも、俺には安心だった。
一緒にイクってのは結構難しいもので、でも片方だけ先だと気分が冷めてしまう。男ってのはそんなもんだろう。俺が先だと、そうだからだ。桜木は、それに気づいてから、ほんの少しだが俺より先にイク。余韻ってやつがないのか、その後は俺をイかすことに熱心だ。
二人とも終わるまで、俺達は口付けたままだ。これもいつものことだ。
脱力したまま眠りにつこうとする俺を、かかえるようにして風呂場に連れていき、電気もつけずに体を流す。無言で俺の体まで洗ってくる。これも、いつものことだ。
半分寝ぼけながら考えることがある。例えば宮城キャプテンや後輩達、または卒業していった赤木キャプテン達に、桜木が俺の体を洗う姿が想像出来るだろうか、となんとなく笑ってしまう。そうされている俺自身が、まだ信じられないからだ。きっと、朝になったらまた無言のまま登校して、夜の二人など夢だったのだと思うくらいの二人に戻るんだろう。それでもまた、「なぁ」と誘われたら、俺はこの部屋に来てしまうんだろうなと眠りに入りながら思った。
2000.10.16 キリコ