こんな方法もアリ
どんな感じなのか、痛いとか、想像する暇もなかった。
「イッ!!!」
叫びたかったけれど、こんな時でも負けず嫌いが先に立った。脂汗が浮くような、痛みが走る。ピリピリと、引き裂かれる感じだ。
たぶんわかってはいるのだろうが、それでもアイツは突き進んでくる。
「俺もイテー…」
ならヤメロ、と言いたいのに、口を開こうとすると呻き声しか出なかった。
「…力、抜けねーか?」
やめようという気がないことが、この一言でわかった。
俺は、ギリギリと音が聞こえそうなくらい歯を食いしばり、無意識に押しのけようと桜木の肩に爪を食い込ませて、全身が固く、力が入った状態だった。言われるまで、自分がそんなに構えていたことに、気付かなかった。
どうすれば、力が抜けるのかもわからないのに、「わからない」と言いたくなくて、目を瞑ったまま取り敢えず深呼吸してみる。しかし、深く息を吸うことも出来なかった。
「……う、動くな」
かろうじて、それだけ言うと、よほど辛そうに聞こえたのか、ピタッと止まった。
桜木は、逃がすまいとしていたのか、俺の両肩を下から押さえ込み、体を密着させていた。俺が爪を立てても、気にならないのか、それとも無視しているのか、欲望の思うままに突き進んで来たらしい。
お互いの胸から汗がしたたり落ちるのを、ようやく感じ取れるくらい落ち着いた頃、桜木が少し体を離した。そのわずかな動きによる振動にすら、ウッと呻きたくなった。
「…動くんじゃねーどあほう」
少し、話せるようになった。そんな自分にホッとして、首を仰け反らせると、腕から力も抜けてシーツにパタンと落ちた。ゆっくりと息を吐き出すと、腹筋が弛んだのがわかる。やっと、深呼吸出来た。
「……ダイジョブか…?」
俺の両脇に両手をついた桜木が、上から聞いてくる。とても大丈夫、と言える状態じゃなかったが、やはり口には出来ない。
もしかして、理不尽なことをされているのでは、という考えは、実は全く起こらなかった。
こういうのもアリか、とお互いに気付かせたのは、たぶん俺の方だ。
桜木が、活躍した。県大会で頑張った。1年前なら、計算外のラッキー、と言えた。今はどうだろうか。怪我を克服してからのコイツは、確かに努力していたと思う。ずっと見ていたと、正直に認める。目を見張る努力は、俺にも活力を与えてくれた。追いつかれるとは思わないが、それでもうかうかしていられない、そんな無言のプレッシャーだった。
試合の帰り、俺は一度だけ桜木と目を合わせ、誘われてもいないのに、勝手に付いてきた。俺は何も言わなかったが、コイツはわかったらしい。家に着くまで、ひたすら無言のまま肩を並べて歩いた。
部屋に入るなり、俺は勢い良く桜木を押し倒していた。
口付けても、体中を撫でても、何度イッてイかせても、物足りなかった。口で褒めることも出来ず、それでも嬉しさに舞い上がっていたのだと思う。何に嬉しいのか? 何を喜んでいるのか? 勝てたことはもちろんだ。そして、たまには素直に認めてみようか。桜木が、上達しているのが嬉しいのだ、と。
こういう感情を言葉にするのは難しく、「よくやった」とも「やったな」と褒め合うことも出来ず、思いつくのは「この野郎この野郎」ばかりで、俺は桜木の頭を何度もバシバシ叩いていた。
「イテーじゃねぇか! なんでこんな時に叩くんだ!」
怒ったいうより、少し呆れているらしい桜木は、笑いながら俺に腕を振り上げる。素っ裸のまま、けんかを始める。桜木も、勝てた事も嬉しいのだろうが、自分の努力がコート上で表れたことが、嬉しいに違いない。
俺達は、はしゃいでいた。殴り合いをしているのに、お互いが高ぶっているのがわかる。二人とも、マゾなのか、サドなのか。まぁ、どちらでもないとは思うけど。
鉄拳を喰らわせては、キスをして。
腹を蹴っては、ついでにソレにも口付ける。どこがついでだ、と思うけれど、俺は自然とそうしていた。
上になり下になり、入れ替わり部屋中をグルグル回る。もうふとんも関係なかった。壁に衝突するのも、気にならなかった。
そんな中で、たまたまオレが、ソコにぶつかった。チカラを持ったオレは、一瞬桜木のソコにグッと当たる。たぶんその時だ。お互い同時に思っただろう。
ああ、こういう方法もあったのか、と。
こんな痛い思いをするならば、さっき俺が突き進んでおけば良かった。それでも、すぐに俺を組み敷いた桜木に、大人しく従ったのは俺だ。どうしてなんてわからない。そのことが、どういうことか知らなかったからかもしれない。
そのこと、桜木が俺の中にいるらしい、というのを、ゆっくりと実感出来てくる。痛みの方が強かったが、その痛みの発信地に桜木自身がいる。ほんの少し、ソコにチカラを入れてみると、ピリッときて、すぐに後悔する。しかし、同時に上の方から、
「ふっ…ウッ…」
なんて声が聞こえて、俺は後悔するのをすぐに止めた。
気持ちも体もすっかり萎えていた俺は、こんな状態なのにもの凄く冷静で、相手だけが盛り上がっているのを観察していた。桜木は、まだ欲望を持ったまま俺の中にいるからだ。
少しでも感じ始めると、たぶん無意識にだろうが、その腰が動き出そうとする。それを、俺は許さなかった。
「動くんじゃねーっつってんだろ」
真っ暗な中、下から睨み上げる。俺にもうっすら桜木の顔が見えるのだから、多少はわかるだろう。俺は今やっと、目を開けられるくらいになったのだ。
桜木は、困った顔をしている。たぶんイイんだろう、俺の中が。きっと、このままイきたいんだろう。けれど、痛そうにする俺が「動くな」というので、仕方なくガマンしているらしい。
俺は、おかしくて仕方なかった。
ゆっくりと、両足を桜木に腰に絡めると、自分で自分を痛みに追いやっているようだった。それでも、そうしたい、と思うくらい、今日は桜木がかわいく見える。俺が、動くたびにコイツがあげる声が、俺を奮い立たせる。
痛いけれど、何度かキュッとチカラを入れる。その何度目かで、何とも気持ちよさそうな表情をしたまま、桜木はイッた。この瞬間に、こんな表情をさせたのは、紛れもなくこの俺だ。そんな思いで、俺は気持ちだけイッた気がする。
おめでとう「はなる」(笑)
2000.10.28 キリコ