赤 面
ズキズキと部分的に痛む。体中が筋肉痛だ。あまり使わない筋肉を使ったからか、それともやたらと力んだためか。だるさを引き起こす発熱も、今日はだいぶましだ。この熱はなんだろう? 筋肉の使いすぎ? それとも感染か。
桜木の部屋で、一人ゆっくりゴロゴロしている。今頃は午後の授業中だな、と思い、眠くなるのも納得がいった。いつものお昼寝タイムだ。あと数時間でクラブが始まる。だけど、今日は出られないだろう。というより、起きあがるのもやっとなのだ。
冷静になってみると、おかしなことをしてしまった、と思ったりする。動けるなら、ここを飛び出して、二度と顔を合わせないようにする、とも思う。
それなのに、まだ授業中のはずのアイツが戻ってきて、そばにいなくても近くにいる、ということに、妙に安心している自分に驚いていた。「ルカワ? メシ食ってねーじゃねぇか」
お昼過ぎに、なぜか帰ってきたアイツが言う。ちゃんと登校させたはずなのに。俺の言った意味が通じなかったのか。やっぱ、
「…どあほう…」
俺が開口一番そう言うと、桜木は俺の枕元で大きなため息をついた。
「…ガッコには行った」
俺が休ませたくなかったのは、ガッコのことじゃねーどあほうが。
「けど、…なんてーか、キツネのいないクラブもなんか変だしよー」
顔を半分以上ふとんの中に入れていた俺は、目だけ出して桜木を睨んだ。
「天才は、1日くれー休んでもダイジョブなんだぜ?」
どあほうどあほうどあほーー! わけのわかんねーこと言ってんじゃねー。
「…どあほう…」
俺は、それしか言えなかった。桜木は、また大きなため息をついた。
「おめーはそう言うと思った。公園で自主練してきたから、シャワー浴びてくる」
桜木は、さっさと立ち上がっていってしまった。
先ほどまで座っていたその場所をじっと見ながら、俺はしばらくボーっとしていた。なんだ、わかってんじゃねーか、と何やらホッとした。俺の汗も流してやる、と半ば強制的に風呂場に引きずられる。熱があるときは良くねーんじゃないかと思うのだが、風邪じゃなければいいのだろうか。昨日から、いや、してしまった一昨日から、ずっとこうだ。何回も洗われた。湯船につかまされ、桜木にお尻を突き出す格好、という状態が、最初は蹴りを入れたいくらいイヤだったのだが、一度見せてしまえば後はどうでもいいってな気持ちでまかせることにした。
「もう血は止まったな」
桜木の指をとんでもないところに感じながら、そして淡々とした観察口調に、じっと見られていることを意識した。コイツは、よく平気な顔をしてそんなところに触れられるもんだ、と多少呆れる。
そして、黙々と俺の全身を拭き、素っ裸のまま俺をうつ伏せにする。腰だけ引っ張り上げて、とんでもない格好をさせやがる。だけど、コイツは普通の状態らしく、手つきにもいやらしさは感じない。俺の腰を押さえながら、ソコに軟膏を塗っているらしいのだ。
これで、何回目かわからないが、こうされている中で気が付いたことがある。こういう軟膏類、とかを塗った方が、滑りが良い気がする。桜木が気付いているのかはわからないが。
滑り? 何の? と自分にツッコミを入れる。
俺はもしかして、またヤリてーのか? あんなに痛かったのに、か?
そんなことはねーと首を振りながら、組んだ両腕に顔を埋めると、桜木は驚いたようで、話しかけてきた。
「…ルカワ? 痛かったか?」
ゆっくりと振り返ると、俺の尻の向こうに桜木の顔が見える。心配そうに見つめてくる意外と優しそうな瞳に、俺は「なんてこった」と思った。顔に血が上った気がするのだ。もしかして、俺は今赤面してるんだろうか、と思ったら、顔を上げられなくなった。
桜木が、突然オレを掴んできた。
「…ルカワ、タッてんぞ?」
そう言いながら、ゆっくりと扱く。声を出したくなくて、俺は自分の腕に噛みついた。
「…ん…」
明るい真っ昼間の日差しを受けながら、俺は果てた。もうすぐクラブの時間だなーとか思いながら。
桜木は、黙ったまま俺の後始末をして、そばから離れた。
また熱が上がりそうだ。
2000.11.6 キリコ