誕生日はおまえと(ってガラじゃねーだろ?)
だいぶ暖かいと思ったら、いきなり冬に戻ったり。春ってのは、めんどうな季節だ。けれど、心地良い気候だってのは、俺にもわかる。寒いのよりはマシ。
春休みになってから、俺は一つ思い出した。一年前は、まだこんなじゃなかった。「こんな」ってのを口では説明出来ないけれど、桜木と俺は、こんなじゃなかったのだ。今ではこれが普通で、当たり前になってしまっているのに。
いつものように、部活以外もバスケする。たいていは、アイツも一緒だ。待ち合わせなんかしたことない。けれど、行動パターンが似てしまってるんだろう。よくよく考えると、それはそれで気持ち悪いかも。ツーカーみたいで…。
じゃぁ桜木花道についてよく知っているか、と聞かれれば、やっぱり首を傾げる。親しいわけじゃないし、なんだか一緒にいるだけで。それがなぜかってのが、とにかくわからないから、わからない。桜木が、何を考えている男なのか。
ま。確かに、入学したての頃よりは、いろいろわかってる、と思う。そうなのだ。きっと、ドーンとお祝いとかしたいヤツなんだと思うのだ。
一年前誕生日をムリヤリ教えられ、呆れたことに俺は覚えている。エイプリルフールと重なっているからか。俺とちょうど3ヶ月違いだからか。ま、覚えやすかったから、かな。
こんなことは初めてで、日付カレンダーをめくる度に、考えてしまう。どうすりゃいいんだろう? 去年は「めでてー」とか、何か言っただろうか? 勝手にくれる女どもと同じように、プレゼントでもしなきゃならねんだろうか? …俺が?
バスケ以外のことを考えるのがメンドーなのに、誕生日という言葉に囚われている、そんな自分にムカつく。だいたい桜木が何も言わないのが悪い。だから、俺は知らんふりすることにした。きっと、「祝わせてやる」とか言い出すだろうと思うから。
のんきに構えて、ほとんど毎晩一緒に眠るのに、ついに桜木は、何も言わなかった。
俺の記憶が正しければ、今日だって日。朝から体育館で部活をし、午後からいつもの場所へ向かう。桜木もちょっと遅れて来た。いたっていつも通りだ。
何だか拍子抜けするくらい、日常過ぎて、気にしすぎた自分がバカみたいだった。こんなに、他人の誕生日について考えてやるのは、初めてなのに。
俺の誕生日はどうしたっけ、と休憩中に思い出す。確か、桜木はケーキを買いに行った。なぜもっと早く教えないのか、と怒られたはず…。「…なんで何も言わねぇ?」
「あん?」思考がポンと口から飛び出す。静かな怒りがフツフツと沸き上がる。俺は簡単にムッとするけれど、いつもキレるわけじゃない。だから、こんな感情が溢れているときは、冷静にボールを扱えないことを、身をもって知った。こんなにも、ニンゲンってのは、気持ちに振り回されるものだったのか、とか驚いた。
試合中も冷静でなきゃな、と突然気付いた。いきなり帰った俺の背中に、桜木が何か話しかけていたのは知っていたが、落ち着かない俺は珍しく家に向かった。
でも家にいてもソワソワした気分が抜けず、結局夜遅くに出かけてしまった。
春とはいえ、夜は肌寒い。そんな中を愛車で慣れた道を飛ばす。俺が、こんなにもメンドーなことをしてやるのは、バスケと、てめーだけだ、どあほう。
力任せのノックに、怒鳴り声が返ってくる。ドアが開いたところに差し出してやると、声が止まった。俺が、買ってきてやったケーキ。コンビニのだけど。「…ルカワ?」
「食え」
オメデトウとか言わなかったが、桜木は嬉しいと先に言った。妙に素直でビックリした。そして、コイツが受け取ったことにホッとし、自分がやけにスッキリした気分になったことにも驚いていた。
この、ケーキを頬ばる顔を見つめていると、ボソッと言った。「いやオメーがよ、覚えてくれてるとは思わなかったけどよ」
「…だから?」
「祝わせてやっても良かったけど、ムリヤリってのもよぉ」
「…どの口が言ってんだ」
「ウルセッ!」その後、ケンカになった。やっぱ日常じゃねぇの? それはそれでいいけど。別に変化を求めてるわけじゃねー。
だけど、桜木は変わってきていると、俺は感じている。こんなセリフを吐きやがったし。「誕生日にさ、オメーとバスケ出来ればそれでいいと思ってたからな」
最近のコイツは、実は桜木花道のかぶりものの別人じゃないか…と不思議に思う。ただケンカとバスケと、時々ヤるだけで、俺はいいのに。
2001.4.4 キリコ