ベッタリ


 いつもよりやたらと早い時間にふとんに連れ込まれた。これからあまりしないと宣言した桜木は、真剣な顔で執拗に俺の体に触れる。穏やかな声で俺を呼んだかと思えば、真面目な口調で呆れたことも言う。
「…ヤリ溜めって出来ねーんかな…」
 思わず俺は吹き出した。

 勝手にそんなことを決める桜木は、自分にリード権があるとでも思っているのだろうか。まぁ、俺から「やる」と言うのはほとんどなかったし、俺が桜木の部屋にさえ来なければ、きっとしなくて済む。俺がここに来ること=やってもいい、という合図だったかもしれない。1年経ってから気づいたことだけど。

 俺達にとって最後の夏で(冬もあるかもしれないけれど)、全力で取りかかりたいチャンスだ。今の俺達になら、当時の赤木キャプテンや木暮先輩、三井先輩の気持ちも少しはわかる。高校生としては、最後のチャンスなのだ。
 それはそれとして、コレと何か関係があるのだろうか。
 禁欲的な生活をしたら、試合に勝てるのだろうか? 溜まるのは同じだと思うのに。だから、一応聞いてみた。
「…挿れなきゃいいじゃねぇか」
 後から思えば、俺はまるで「ヤリてー」と言ってるようなもんだった。
 桜木は、俺から目を逸らし、自信なさげに答えた。
「…止まんねーよ、んなもん…」
 その言葉に驚いた。そして、そんなに俺と「ヤリてー」んだなと思うと、ちょっとした優越感を感じる。ホントのところは、俺も同じに思っているのだが、口に出してない分優位な気がした。我ながら、負けず嫌いだと呆れる。

 何回したのか数えられないくらい、こんなに回数も内容も濃密なのは久しぶりだった。本気でヤリ溜めする気かと驚いたが、俺も止めなかった。
 もうデキねーぞって状態になっても、桜木はやたらとくっついてくる。腕を動かすのも億劫な俺の上に寝そべり、自分の腕を俺の顔を包むように置いた。体重を支えているつもりかもしれないが、十分重たかった。
「…もうムリ…」
 正直に、伝えた。桜木は小さく笑い、俺もだと呟いた。あまりに素直な返事にまた驚いた。
 桜木は、ゆっくりと俺の鼻先に口づけた。チュッという音の後、大きな手が俺の汗を含んだ前髪を後ろに撫でつけていた。
 たいして暑くもない夜だったけれど、二人で大汗をかいた後だし、下半身の汚れは音となってその存在を示してくる。さっさと流したいと思うのに、桜木は動こうとしなかった。
 飽きることがなさそうに動いていた右手が、ダラリと放られた俺の腕を取り、自分の背中に回させた。左手の次は右手。桜木の背中にゆるやかに巻き付けろ、ということらしい。
 黙ったまま赤い頭が近づいて、俺の首筋に額が当たる。胸の上にしっかりと頬を乗せ、ため息とともに吐き出された息が鎖骨を通る。
「…なに懐いてんだ…?」
「……たまにゃいいじゃねぇか…」
「ブキミ」
「ウルセッ!!」
 悪態を付いても、桜木は張り付いたままだった。
 何を甘えてるんだ、どあほうが、そう心の中で毒づきながら、思い通りに動かない両腕に力を込めた。
 

 
殴り描いたハナルでごめんなさい

2001.5.24 キリコ
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