夢
小指を口に含む。小さな指というには大きい足だけど、20本の中では確かに一番小さいだろう。土踏まずをゆっくりと撫で上げると、くすぐったそうに身を捩る。けれど、軽く舌でつつくと、足がビクリと震える。
踵は飛ばして、足の甲から踝まで舐め上げる。そのままずーっと奥へと向かう。
どこまでも続きそうな白い平地。まっすぐで細い道。音を立てながら、少しずつ進む。
浮き出た膝小僧を全部口に入れて、しっかりした大腿四頭筋に頬ずりする。ピクッと震えながら逃げようとする両足に体重をかけて、スラッとした長い状態に固定する。そしてまた先へ進む。
ふとんも白くて、足も白くて、なのに突然黒い部分が現れる。その黒い草むらの中に白というより肌色が見えた。コイツもちゃんと男だよなァと感心したり、安心したり、けれど、そこは指で撫でるだけで、直接は触れない。それだけで、屹立が強くなった。
もう少し奥へ進むと、浅い溝がある。意外と感じるポイントらしく、舌を入れると身体全体でビックリする。
そのまままっすぐ舌を滑らすと、鎖骨の間に来る。自分の頭がふとんから出たことに気付き、何かの動物のようにまた暗闇に戻る。
広い胸の両端に、小さな存在がある。これは楽しい。小指のときのように、口をすぼめてみる。ちょっと力を入れただけで、長い腕が飛んでくる。殴るためではなく、ただ首に巻きつけられる。これを俺は勝手に「もっと」だと解釈している。コイツはこれに弱い。
潜り込んだまま進むことが出来る場所は、横方向しかない。この脇腹は、ふだんならただくすぐったい場所だろう。しかし、こんなに熱を帯びているときは、違った反応が見られる。身を捩るけど、逃げはしない。
脇毛に顔を突っ込むと、汗の匂いを強く感じる。フンフン鼻を鳴らすと、毛先が鼻穴をくすぐる。俺は、これが結構嫌いじゃない。しかし、コイツはニガテらしい。拳で後頭部を小突きやがる。
そのまますぐに上腕部に流れて、ずっと手の先まで頬を滑らす。足より細く、足より毛もない、でも筋肉質でまっすぐな腕。いつからあのボールが掴めるようになったのか知らないが、その大きな手のひらには特別のチューをする。指を一本一本口に含むと、いちいちクチュリと音がする。反対側の腕にいこうとしたら、頭を両挟みにされ、グイと引っ張られた。
ようやく明るい場所に出てきたが、視界が近距離過ぎて相手がはっきりわからない。けれど、間違えようもないくらい、覚えきった薄い唇に、俺はホッとする。夢中になって舌を絡め合う。
互いの長い両腕を、相手に巻きつけて、強く抱き合う。決して離れないように、まるで磁石のようだ。そして、いつの間にか俺達は一つになっている。
俺は一生懸命アイツに挑み、アイツはたぶん一生懸命応えてるんだ、と思う。
腕の中からくぐもった声が聞こえただけで、俺はアツクなる。
生まれてから15年間、知らずにいたその身体を、限りなく教え合う。
一緒に努力したから、一緒にキモチ良くなれる。
俺の身体はアイツに馴染んだし、アイツは俺を受け入れられるようになった。イクときは、必ずアイツを呼ぶ。それは「くせ」でもあるし、「儀式」のようでもある。
なぜか、なんて聞かれても、きっと答えられない。
俺は、何度も何度も呼び続けた。間違いなく抱きしめていた身体が、突然ユニフォームを着た背中に変わる。
いつも、前を走るアイツ。俺は、いつも、死にものぐるいで追いかけていた。
どんなに呼んでも、アイツは一度も振り返らなかった。
「ルカワッ!」
ガバッと起き上がると、汗が飛び散る。最近の俺は、こんな目覚め方ばかりだった。
ルカワが俺の前から、いやこの日本を去ってそろそろ一週間。
今日から二学期が始まる。
2001.6. 6 キリコ