ここは、カラフルな髪だらけだ。
 コートの上だけでなく、街中そんな感じ、そう思った。
 アイツの頭も、ここなら目立たないだろう。

 初めて来た遠い場所。知り合いもいない、日本語も通じない。
 けれど、ここにはバスケットコートがたくさんある。
 「ちくしょう」とか「このヤロウ」とか思える相手が、ゴロゴロいるのだ。
 これ以上、何を望むというのか。

 負けず嫌れーだな、と再確認出来るくらい、ムカムカした日々だった。そして、意外と前向きな自分に気付く。落ち込むということを思いつきもしない。どちらかというと、敵わなくてシアワセかもしれない。上には上がいる。俺は、井の中の蛙にはなりたくなかったから。
 それにしても、黒人も白人もデカイ。日本では俺は高い方のはずなのに、コート上だけでなく、街を普通に歩いていて、目線が同じってのは当たり前だ。男だけではないから、また驚く。もしもコイツらが日本でバスケットをしていたら、間違いなくスタメンじゃないだろうか。
 そんな、どうでもいいような想像をしてしまうくらい、バスケ以外、することがない。

 日本にいるときは、俺はいったい何をしていたっけ…?

 そんなことを考え出すと、存在感のある顔が脳の中に次々に浮かんでくる。たいていは怒った顔で、ときどき笑顔だったりもする。
 しょうがないから思い出してやる、と口に出してみた。そうすると、ホントにどんどん現れる。

 そういえば、バスケ以外の時間は、たいていアイツといたような気がする。

 

 来た当初は、まず慣れることに精一杯で、いくらマイペースな俺でも戸惑うことばかりだった。少しずつ周囲に馴染んできて、だんだんバスケットだけに集中出来るようになると、それ以外の時間を持て余していた。やっぱり寝る以外趣味もなく、横文字ばかりの雑誌を読むのも気力がいった。
 結局、考え事ばかり、してしまうのだ。

 どこでも眠れる俺が、ここ数日熟睡出来ないでいる。寝る前に、思い出した夜は絶対そうだ。
 じゃぁ、思い出すな、と命令するのに、アイツは勝手に夢に登場してきやがる。
 どんな夢か、ってのは覚えてないが、ひどく苦しい夢な気がする。追いかけられてるとか、責められてるとか。ヤッてる夢もみる。けれど、目覚める寸前には、必ず睨まれて終わる。その目は最後に会った日に向けられた瞳に違いない。
 なぜそんな罪悪感なぞ、感じなければならないのだろうか。俺は、俺の進もうと思う道を、ただひたすらまっすぐに行くだけなのに。自分のしたいことだけに集中したい、それだけだ。
 けれど、心のどこかで物足りなさを感じているのも確からしい。それは、技術なのか、チームメイトなのか、何なのかわからない。

 とにかく、最近の俺は、すっきり眠れなくなっていた。そうなると、ますます無趣味になってしまうと自分で自分を嗤った。

 

2001.6. 6 キリコ

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