クリスマス

 

 ギルがクリスマスプレゼントをくれると言う。そんなものを贈り合うとは知らなかった。
『ま、半分はギャグだから』
 笑いながら紙袋から取り出したのは、真っ赤な髪のカツラ。驚いて手を出すことも出来なかった俺の頭にそれを乗せる。勝手に乗せたくせに、「似合わない」と肩をすくめた。
『なんだこれは…?』
『カツラ』
『それはわかる。だからなんでカツラなんだ?』
 しかも「赤」というところが引っかかった。
『赤い髪がいいって言っただろ?』
 ギルは笑顔だった。何が嬉しいのか楽しいのか、アメリカ人のジョークはわからねーと呆れた。俺は頭の上のそれを取り、金髪の上にかぶせる。俺より短い髪は、赤い髪に取って代わった。
 ギルとアイツに似てるところなど一つもない。ないのに、俺は赤い髪に惑わされてしまった。その赤だけに、じっと見入ってしまう。まるでアイツが目の前に座っているような、とても当たり前の感覚。けれど、今では非現実的な幻覚。
『……カエデ?』
 黙り込んだ俺を、下から見上げるようにギルは呼びかける。違う、アイツじゃない。そう自分に言い聞かせる。アイツは「カエデ」なんて呼ばない。けれど、呼ばれたことはある。
 俺は、赤い髪を茶色い紙袋に突っ込んだ。 

 

―――クリスマスって、どういう日か知ってるか?
―――キリストが生まれた日
―――ルカワ、おめークリスチャンか?

「違うに決まってんじゃねーか、どあほう」

『…何か言った? カエデ?』
 そばにいたことすら忘れてしまっていた気まずさから、俺はただ首を横に振った。何とかいうスーツを着こなしたギルが立ち上がる。そばを通り抜けるとき、『Merry Christmas』と耳元で囁いた。

 クリスマスというものが、日本とアメリカとでこれほど違うのだと身をもって知った。家族で過ごすらしいこちらの風習に、俺は当然のように日本に帰るのかと尋ねられた。そして、帰らないと答えると、いろんな奴らが誘ってくる。かなり後になってから知るのだが、クリスマスに一人でいるのは良くないというか、危険というか、寂しさにやられてしまう人が多いのだそうだ。
 俺はそんなタイプじゃねーと思いながら、けれど誘いに乗った。といっても寮のパーティだが。一人でいると、また考えてしまうから、そんな自分がイヤだから尚のことだった。
 高校生のパーティとは思えないようなレベルだ。言い方はおかしいが、日本では考えられないだろう。うまく表現出来ないが。
 そんな雰囲気にとけ込めない俺は、隅のソファで静かにビールを飲んでいた。ビールの味も、日本とは違うなーと思いながら。

 結局、大勢でいても、たった一人で過ごしても、俺は絶対にアイツを忘れられないんだ、と認めるしかないらしい。窓の外の白い雪を見ながら、大きなため息をついた。

 

 

2001.7.14 キリコ

 
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