赤木春子マネージャー

 

 俺が知っている「赤木春子」は、赤木先輩の妹で、湘北バスケ部のマネージャーだった小さいヤツ、しかいない。賑やかで、思いこみが激しいのだろうか、よく勘違いしていた気がする。俺よりも先に、桜木と知り合っていた。アイツと初めて顔を合わせたのとほぼ同じ頃、同じ場所で見かけた。話しかけられたから、この表現はおかしいのかもしれないが。

 桜木も言っていたが、どういう遺伝子の為せるワザか、あんなちっせーのが赤木キャプテンの妹だというのがどうしても不思議だ。そういう意味では、驚いてよく覚えている女だ。ギャーギャー叫んだりする勝手なファンと同じだと思ったが、けれどマネージャーとしては結構しっかりやってたんじゃないだろうか。彩子先輩がいなくなってからも、マネージャーらしかった、気がする。どういうのがマネージャーか、と言われると説明出来ないけれど。

 
 今日受け取った封書の裏書きに、赤木春子という小さな文字があった。ちっせーちっせーと連呼するくらい小さいのに、字まで小柄らしい。頭の中で、思い出しながら封を切る。勢い良くやりすぎて、中に入っていた写真まで折れてしまった。
 1枚は、1年の夏、記者に取ってもらった集合写真。決勝まで進んだインターハイよりも、よく覚えているかもしれない試合の後だ。笑顔の桜木は、実はこのとき相当な痛みに耐えていただろう。そんなことを記憶しているわけではない。俺と桜木の、初めてのハイタッチ。それが最後だったわけでもないけれど、もの凄く印象に残っている。バスケ部の写真なのに、改めてよく見ると桜木軍団もいて、なんだかおかしかった。
 もう1枚は、おそらく卒業式だろう。ガクランに卒業証書、小さな花を持った連中が写っている。桑田や後輩達と、また桜木軍団。バスケ部でもないのに、いつでもバスケ部とともにいる。というよりは、桜木と一緒にいるんだろう。そしてなぜか卒業していったバスケ部の先輩達も写っていた。
 けれど、この中に、あの赤い髪がなくて、俺は一人一人確認した。他の黒い髪にも、桜木の顔はなかった。卒業出来なかった、のだろうか、とまず思った。けれど、ハガキには卒業だと言い切っていたし、まさか体調でもとほんの少し心配してみたり、いやそれよりもサボりの方があり得そうと強引に思い込ませてみたり、した。
 眉を寄せたまま、やっと手紙を開いた。もしかしたら理由が書かれているかもしれないと期待して。

 その中身は寄せ書きだった。懐かしいメンバーから一言ずつ書かれている。赤木キャプテンや宮城先輩の名まであるのには少し驚いた。なんとなく年齢順に読んでいく。先輩からの言葉と、後輩からの応援とが、どこか違っておもしろい。「俺もいつか先輩みたいに本場でやりたい」という素直な夢、目標だろうか、を持つ後輩に対し、先輩達はすでに落ち着いている。それぞれの大学で、バスケットを中心に、いろいろやってるんだろう。
 そして、この寄せ書きの中に、桜木花道の名前はなかった。

 
 短い手紙の中から桜木の情報を集めると、とにかくずっと大学に入り浸って練習しているらしく、卒業式の日も、赤木キャプテンですら来ているのに主役が来ないと呆れていたらしい。バスケットをしていたから、卒業写真に写っていない、と考えていいのか。まぁ考えてもわからないことは、これ以上時間の無駄だと写真を放り投げた。
 けれど、そこまで必死でやってるのかと思うと、俺はなぜか嬉しい気がした。たぶん、嬉しいんだろう。
 きっと近いうちに、アイツは俺に追いつく。目標でも夢でもなく、きっと現れる。
 早く俺のところまで来やがれ、どあほう。

―今どこで何してやがる

 別に聞きたいわけじゃない。けれど一応、なんとなく。
 
高校でも大学でも、このアメリカでもいい。お前も同じ思いでバスケットをしてるなら。

 

2001.8.10 キリコ 

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