カリフォルニア滞在記
「空が高えなー」
まず何がしたがるかと思ったら、いつも使っているバスケットコートに案内しろと言う。着いた早々で時差ぼけはないのか、不思議だった。
劇的な再会、例えばテレビで見るような、「久しぶり」から始まるのかと思っていた。けれど、とりあえず淡々としたものだった。桜木は、外見は全く変わっていないように見える。真っ赤な髪も相変わらずだ。ただ、また少し背が伸びている気もする。それと、逞しくなった。
いつものコートでよく会うメンバーとバスケットをする。桜木も混じる。それから初めて気づくのだ。桜木の上達に。
しばらくして、体育館の角で桜木は眠ってしまった。それを見て、「人間の桜木だ」などとおかしなことを考えてしまった。このロサンゼルスでは、海岸沿いにコートがある。誰もが使えて、いろんな奴らがいる。俺も何度か来たことがある。
「海見るついでに、そっちへ行こうぜ」
そういえば、俺に元気かとも聞かない桜木。別にいーけど。
「…いーけど」
大学でやるのと違って、いろんな奴らがいる。少々乱暴なのから、ちょっと言いにくい面々もいる。まあ行けばわかるだろう、と何も言わなかった。
コートまでたどり着くと、その試合が落ち着くまでは取りあえず観戦する。シカゴでも思ったが、とにかくバスケットが出来ないのはアメリカ人じゃない、くらいのプライドがある。誰もが出来るのだ。だから、「少々出来る」では太刀打ち出来ない。
そして、桜木と俺は別々のチームに入れられて、揉みくちゃにされながらも負けてばかりじゃない桜木を見た。どこへ行っても適応する桜木。
…ずいぶんと冷静に観察してしまった。「なあルカワ…」
「…何だ」
「アイツらって…その…」
俺も前に会ったことがある二人を指差して桜木が汗をかく。あまり目立ってはいないけれど、試合の後、手に手を取って歩いて帰っているのだから。
「…こっち、多いぜ」
はっきりと俺にも言えない。他人のことなんかどうでもいいし。
けれど、知らない桜木にエラそうに言える機会を俺は逃さなかった。
「あのレインボウの旗、見える」
遠くの窓を指差して問う。桜木は素直にその方を向く。
「…あれ、来るときも別んとこで見たぞ。なんか意味があるのか?」
「そー。「そう」だって知らせ」
「…はっ? わかりやすく言えよ」
「俺はゲイ、または俺たちはゲイです。ここにはそういう人物が住んでいます…って知らせ」
「何っ」
目を見開いて、次の瞬間には頬を染める。何を照れることがあるというのだろうか。
「そ…そんなにオープンなのか…?」
「…ここら辺はな」
海岸に近くなればなるほど、そういう人たちが多いと聞いている。俺自身、声をかけられたことがあるので、一人では来ないようにしていた。
「じゃ…じゃあルカワ…」
「…なんだ」
桜木が驚きで落としたボールを、俺はバッグに終っていた。だから、桜木が赤い顔のまま俯いたことも、躊躇っていることも気づかなかった。
「お…お、俺らも…手…繋ぐ?」
「はっ?」
予想外の言葉が出てきて、桜木のマネをしてカバンを落とそうかと思ったくらいだ。
けれど、本気の桜木は、俺の返事よりも先に実行してくる。
カバンを取って、俺の左手を引っ張った。大きな手が俺のをギュッと握る。正直痛かったけれど、それよりも懐かしい方が大きかった。
俺より半歩前を歩いているから、耳が赤いのもわかる。
なんだ、いつもの桜木じゃねぇか、とやっと桜木花道に会えた気がした。
それにしても、海岸に一人で来るなとか、言えねーのかよ。俺が標的になるとか想像しないんだろうか。なんてことを心の中で考えてしまった。
ま、別にどっちでもいーけど。
言われたら言われたで、「どあほう」と言い返すだけから。
ずいぶん前からやりたかったロサンゼルスの流川。
このために昨年ロスに行ったのかもしれない…(笑)
それにしても、古くから遊びに来てくださってる方ならお気づきかもしれない…
キリコは「シカゴ」と「ロサンゼルス」を舞台によく選ぶ人である…(笑)
NEXT
2002. 7. 4 キリコ
Happy birthday ! US !