Fox&Monkey
花道はいつも流川より早く起きる。シャワーを浴びて朝食を作る。二人で暮らしているわけではないけれど、役割分担はかなりできていた。今日は自分で目覚めた流川は、花道の後ろ姿を見ながら、黙ったまま洗面所に向かった。
用意された朝食に、流川は何も言ったことはなかった。だから、花道は流川の好物を把握していない。文句を言わない限り、きっとそれでよいのだと思っていたから。
それが。
「そ、そのよ…俺の分しかねーの」
花道は顔を逸らしながら、小さな声で呟いた。流川がやってきたのは予定外のことだったから。
「…それでてめーが持ってるのは?」
花道は「自分の分」といいながらも、それをすべて流川に差し向けて、自分はコンビニのおにぎりを手にしていた。
「俺ぁ……食えりゃ何でもいい」
温かい朝食を遠慮しなかった流川は、それでも花道がおかしいのはわかった。目を合わさないのだ。そして、普段の花道なら、まずは「自分の分」は本当に自分のものとして威張るはずだ、と流川は思ったから。
昨夜からおかしいのか、それとも夕方おかしいと感じたことなのか。いずれにしても、流川にはどうしようもなく思えた。
「…目玉焼き、食え」
「…え……いや…ちょうど今日買いに行く日だった…からよ…」
「いいから…」
ますます顔を逸らす花道に、流川はため息をついた。その顎を強引に掴み、流川は目玉焼きを口に突っ込んだ。
「なに…あ、あヒッ」
流川は少し笑った。そして、まだ熱い目玉焼きから、自分の行動に合わせて作られたものだと初めて気づいた。それが貴重なものに思えて、流川は花道の口から、少し奪い返した。
「て、てめ…」
口を押さえて顔を赤くする花道がおもしろい、と流川は思う。朝食の席で流川がお箸以外を動かすのは珍しいことだった。自分が意識していないところで、花道に気を遣っていたのかもしれない。
目玉焼きを呑み込んだ花道は、やっと流川を睨んだ。
「てめーは何がしてーんだ!」
「…別に…」
思ってもみない流川の行動に、花道の心臓はバクバクいい続けていた。
「…今日はよ…てめーで起きやがったな…」
「……」
「き、昨日は……来て…」
テーブルに頭をぶつけ、花道は言葉を続けなかった。流川は食べる手を止めないまま、その後頭部を見つめた。自分が感じた何かは間違いではなかった、とだけわかった。
「桜木…」
「……えっ?」
「…俺は、どこにも行かない」
花道は勢いよく顔を上げた。
「てめーが追っかけてくるんだろ?」
「……ルカワ? ちょっと意味が違うんじゃ…」
表現はともかく、今の二人が離れないことは確かだったから。
三井たちバスケットボールの先輩たちや桜木軍団たちと離れることが寂しい、という思いを汲み取ってくれたらしい流川が、花道には優しくみえた。
「…ちょっと…プロポーズみて…」
花道の呟きに、流川は目を見開いた。予想もしない単語に、さすがに手が止まった。
「ルカワ? 俺、けっこーてめーがスキだ」
そう言いながら、花道は流川の膝に頬を置いた。椅子から降りるその動きを、流川はただじっと見ていた。
「…桜木?」
「お、俺……誰にバレても、いい…」
頬擦りしてくる赤い頭に、流川は指を埋めた。
「……俺は、イヤだ」
「えっ…?」
「…バレちまったのは別としても、言い触らす必要はないことだ」
「……そ、そ…うか?」
流川は戸惑った表情で見上げてくる花道の頬を一撫でした。そして、すぐにつねった。
「俺たちのことは俺たちが知ってりゃいー」
そういうものだろうか、と思いながら流川を見上げる。まっすぐな視線は自信を持っているように見えた。
「…そっか…そっかな…」
花道はなんとなく納得しておくことにした。
「なあルカワ…さっきの返事は?」
「……何のことだ、どあほう」
先ほどまでの穏やかな雰囲気と変わったと、花道は心の中で笑った。そして、自分が寂しさから浮上したことに気づいた。
「ルカワ…」
伸び上がってきた花道を、流川は首を下げて迎えた。そこからは、素直に伝わるものがあるから。
この5秒後に軍団のお迎えが来るんだろうなー(笑)
「スキだ…」
「…俺も…」と、ならないところが、はなるの醍醐味な気がします(笑)
そう言い合えるはなるもスキですぞ☆