Fox&Monkey
受験のない高校3年生にとって、冬休みはのんびりしたものだった。花道の一日は、自分の練習とアルバイトだけでほとんど終わった。流川も似たようなもので、花道より多く走ったりするくらいの違いだった。それくらい、ほとんど同じ時間を過ごしていた。しかし、流川が花道宅に泊まるのは、これまで通り週一回だった。
大晦日は約束の土曜日ではなかったが、どちらともなくそのつもりでいた。流川は帰国している父とも年越しするつもりはなく、花道がアルバイトで不在なのを承知で、肌寒い部屋で待つことにしたのだ。
「イベント好き男だから」
と、こたつの中で呟いて、流川はぼんやりとテレビを観ていた。
年末の歌合戦を観てもよくわからないが、格闘技を観る気分でもなかった。
このままでは寝るだろうな、と自分で思い、聴きたくもない音量を上げた。
その夜、花道は1時間早くアルバイトを引けてきた。実はこれはだいぶ以前からお願いしていたことで、花道は流川が来る来ないに関係なく、その日は帰宅するつもりだった。
けれど、流川はカギを取りに、花道のバイト先にやってきたのだ。
嬉しくて帰宅の足を急がせたが、部屋の住人は予想通り深い眠りの中にいた。
「ま…そうだろうと思ったけどよ…」
部屋の電気をつけっぱなし、テレビもつけっぱなしで、流川はふとんで眠っていた。こたつで寝てはいけないと注意したのを守っているのかもしれない…と思うと、頬がニンマリと笑う。
花道がシャワーを浴びて出てきても、流川は身動き一つしていなかった。
部屋の電気を消して、花道は静かに温かいふとんに潜り込んだ。流川と知り合うまで、それよりも流川とこうなるまで、大晦日は大晦日でしかなかった。桜木軍団と初詣に向かうか、テレビを観ながら酒盛りをするか、それほど特別な日でもなかった。
けれど、今は違う。花道には違ったように思える。
何といっても、流川の誕生日の前日なのだ。
前日が何だ、と言われるのだろうなと花道は思う。
当人に説明してもわからないと思う。
自分1人で舞い上がっているのでもいい。
お祝いの言葉を、時報とともに。
それが、花道のささやかなこだわりだった。上を向いて眠る流川の肩に、花道は額を押しつける。規則正しい呼吸とともに、花道の頭も軽く上下する。
今はまだ17歳。
そんなことを考えながら、花道は冷たい鼻を押しつけた。
自分が学年の中で一番最後に年を重ねることはわかっている。これまでは気にしたことはなかったのに、流川が自分より先に行くのがちょっと悔しいのだ。これだけは、永遠に変わらないけれど。
「だいたい18歳っつったらよぉ…」
ときどき考えを声に出した。
男が18歳というと、結婚できる年齢なのだ。以前、花道は三井にそう言ったことがある。あのときは、自分たちもその年齢になるなんて、考えもしなかったのに。
流川も、それから自分も遅れて18歳になったとしても。
「俺らは…ケッコンできねーもんな…」
花道は、驚いて目を見開いた。
暗くしたつもりが、付けっぱなしのテレビのおかげで、うっすらと天井が見えた。
自分たちは、男同士だ。
そんなことに改めて思い至った。