Fox&Monkey
お祝いを一番に言うことができたら。
それが叶ったら…と思っていた。実際に、もうすぐ当日になるという時間に、流川は目の前にいた。
どうして言葉だけではいけないのだろう。
ただ寄り添っていられればいいと思っているのは本当なのに。
花道は自分の下半身の反応に苛ついた。眠っている流川にちょっかいをかけるのはいつものことだった。花道がアルバイトを始めたので、眠る時間がズレてしまったから。それでも流川はときどきは起きて、花道に付き合う。無理矢理睡眠を中断させているのに、このときだけは怒らないのだ。
花道は嬉しくて笑った。
流川が、自分から来てくれたから。
目の前にある耳に、そっと息を吹きかける。嫌そうに首を傾げたが、このくらいで起きる流川ではない。
唇にも頬にも額にも、軽く口吻ける。体の上に全体重を乗せると、流川はグゥと唸った。
「ルカワ?」
苦しそうに寄せられた眉に呼びかけると、花道の腰あたりに流川の腕が回った。
完全に目覚めていなくても、流川はゆっくりと応え始めた。花道の頭の中は、いつもと少し考えが違っていて、17と18という数字がグルグル回っていた。17歳の流川と18歳の流川の境目はどこなのか。どこがどう変わるのか。その変化を探ろうと、体の隅から隅まで触れた。
17歳の流川に触れるのは今が最後で、もうすぐしたら18歳の流川だ。
「……バカバカしい…」
自分で口に出して言ってみても、その考えは止まらなかった。
好きだと思っている相手のそばで、その人の匂いをかいで興奮する。その肌に肌を合わせると、胸が熱くなる。まるで初めてのときのように、花道は夢中になった。
頭上から荒い呼吸が聞こえると、花道はホッとする。自分と同じように反応する分身が、とても大切なものに思えた。
「ルカワ…おい…」
自分を受け入れてくれる体を抱きしめて、目の前で呼んだ。自分を見返してほしい、と言えなくて、何度かその名を呼んだ。
「…なんだ…」
問いながら、流川はゆっくりと目を開けた。入ってくる準備をしながら動かないことが、かえって気になったから。
至近距離で目が合うと、なんとなく気恥ずかしい。例えばここが屋上ならば、いくらでも睨みあっていられるのに。
「えっと…」
花道は、指で鼻をこすった。
そのとき突然、けたたましい電子音が部屋に鳴り響き、二人ともビクリと跳ねた。
付けっぱなしのテレビからの音ではなく、その音源は目覚まし時計だった。
「…あん? なんでこんな時間に…」
花道は条件反射のように、ボタンを押した。夜光時計が指す時間は、11時45分だった。
こんな時間に目覚ましをかけたことはなかった。
流川を見下ろすと、彼は眉を寄せて時計を睨んでいた。
「…ルカワ?」
その問いかけが聞こえていないかのように、流川はテレビを見た。画面には、時計とほぼ同じ時間が刻まれている。まだ続いていた歌番組の、最後の歌が流れていた。
「…桜木? なんでテメー…」
「えっ…」
首を傾げる流川の様子から、花道は少しずつ状況が飲み込めてきた。
アルバイトの時間が終わるのは、いつもなら深夜0時で、ここから花道のアルバイト先までは、歩いて15分だった。
流川はもしかして自分を迎えに来てくれるつもりだったのだろうか。そのための、目覚まし時計だったのだろうか。
その推測だけで、花道の鼻の奥はジンと熱くなった。
流川は、花道の気配を感じて、自分が目覚ましを無視して寝過ごしたのだと思いこんでいた。
けれど、今はまだ大晦日だったらしい。
どうやら、イベント好き男はいつもと違う行動をしているらしい。
流川は大きなため息をついた。流川は寝たまま、花道は流川の上で自分を支えながら、それからしばらくシーンとしたまま時間が過ぎた。
「る、ルカワ……その…」
ものすごく躊躇いがちに呟きだした花道の口を、流川は手で遮った。
もう別に、隠し合わなくていいのだろう。
なぜ夜中に目覚ましをかけていて、なぜアルバイトを早く引けてきているのか。花道が口を開くと同時に、どんな言葉が出てくるのか。
その意味がわからない二人ではない。けれど、気恥ずかしさからか、何も云えなかった。照れ合う必要ないとも思うのに。時報の音と同時に唇を動かそうとした花道の顔を、流川は勢いよく引っ張って、触れるだけのキスをした。
言わせてやれよ…流川(笑)