Fox&Monkey


  

 流川は隣のふとんで、顔をあちらに向けた。体が温まったら、花道から離れたのだ。
 自分のふとんが急に広く感じられた花道は、逃げた相手を恨めしそうに見た。
 お互いの妙な緊張感が、花道には新鮮なものに思えた。けれど、それは困った状況にも思えるのだ。
「…る…ルカワ…?」
 呼んで反応を見る。その試みの結果は、花道の予想通り、完全無視だった。

 畳にふとんという和室には慣れているが、ささくれ一つない畳や綺麗な襖、見慣れない天井に、花道は少し緊張した。本当に来ることができたのだな、と感動すらする。目を瞑ると、無駄遣いと怒られたことに反発したくなった。
 こんなにも貴重に思えることなのに。
 花道は、勢いよく首を倒し、隣の住人をきつく睨んだ。

 首筋や肩にかけてのラインは、最初から花道の本能をくすぐっていた。こんな関係になるよりも前、それよりもそれがきっかけの一つともいえた。花道は流川のそこに唇を這わすのが好きなのだ。
 けれど、今日は軽く噛み付いてみた。
 驚いたらしい流川の反応に気をよくして、噛んだところに口付けた。
 ここへ連れてきたことで怒った流川だが、どうやら拒否されるわけではないらしい。そう確信すると、花道の動きは大胆になっていった。

 この部屋に時計はなく、あれから何時間経ったのかわからなかった。
 いつも時間を気にしたことなどなかったが、その夜の彼らは、彼らが思っている以上に時間が過ぎていないことを知らなかった。

 ずっと枕を覆って顔を隠したままの流川に負けまいと、花道は事を進めた。つまらないことだが、本人たちには真剣勝負で、我の張り合いだった。こういうとき、折れるのは花道の方だった。
「な…なあ…いいカゲン…」
 いざ挿入しようというときに顔が全く見えないことが、花道を不安にした。
 花道はゆっくりと枕を外そうとした。
「えっ…」
 枕には抵抗はなかったが、流川がすぐに花道に抱きついたので、結局顔は見られないままだった。
「…ルカワ?」
 花道は流川の肩を押し戻そうとする。けれど、しがみつく力が強く、花道が上体を上げるのと一緒に流川も体を起こした。
 座って抱き合うのが気持ちよくて、花道は流川の背中に腕を回す。そのままでいるのもいいが、中途半端がつらいのも本当だった。
「あ…あの…ルカワ君?」
「……ふとんがやわらかすぎ」
 やっと口を開いたと思ったら、そんな内容か、と花道は驚いた。
「はぁ? そ、それがダメなんか?」
「……別に」
 じゃあ何なのだろう。
 花道は大きく首を振って、空気を変えようとした。
「や、やり…たくない…なら、別にいいからよ……」
 語尾はかなり小さく、流川の肩口に伝えられた。
 イエスもノーも返答がなくて、花道は軽く貧乏揺すりをしてしまう。
 かなり長い時間のあと、流川は花道の上に膝建ちになって、答えた。
「……イヤなんていってねー」
 ようやく見られた流川の顔は、花道には上気してみえた。怒って赤いのか、入浴後で赤いのか、それとも。
「おめー…照れ…」
 花道の疑問は、流川の拳で止められた。
 ワクワクしているのは自分だけではないらしいとわかった花道は、それ以上何も言わなかった。

 座って向かい合うのはそれほど珍しくなく、花道がよく好む体勢だった。
 そのまま花道が流川に覆い被さることはあっても、その逆はその夜が初めてだった。
 勢いよく倒れ込んだ花道は、ふとんが柔らかいことを確かめた。そして、すぐ間近で見下ろされるという体勢に、少し緊張した。
 同じように驚いた顔をした流川は、起きようとはせず、そのまま花道に近づいた。花道の両腕を頭の横に置き、自分の両腕で押さえ込む。花道の自由はかなり奪われた。
「あ…あの…ルカワ…君?」
「…てめー、それ2回目」
 花道を受け入れたまま、流川は冷静に答えた。
「いーから、動け、どあほう」
 こんなときに「動け」とか「どあほう」とかはひどいのではないだろうか、と花道は眉を寄せる。けれど、いつもと逆の立場のようで、困る方が上だった。
 流川は花道のいるそこに力を入れた。すぐにうめき声が聞こえたのに気をよくし、ほんの少し体を浮かせる。そしてまた深く沈める。ゆっくりとした動作を繰り返すと、花道は目を閉じて、流川を追った。
 自分の両腕の中で素直に快感を表す花道に、流川は興奮した。花道が自分の顔を見たがったり、声を聞きたがったりする意味が、少しわかった気がした。自分の背中にしがみつく指の力に妙にときめくことも。
 こうしていると、まるで自分が花道を抱いているようだった。
 唇が触れそうで触れない距離で流川は思いを込めてその名を呼ぶ。今日はからかいではなく、花道を解放に導きたくて。
「はなみち」
 流川の浴衣が引っ張られ、縫い目のどこかが悲鳴を上げた。

 

 


温泉宿でのうにゃうにゃ
やっぱり書いちゃいました(笑)
リクエスト ありがとうございました。

2007. 5. 30 キリコ
  
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