Fox&Monkey
花道が風呂場から戻ってきたとき、流川は相変わらず毛布にくるまったままストーブの前に座っていた。テレビに向かってはいるけれど、その瞳はぼんやりしている。画面の中では、小さくなった10人がバスケットをしていた。
「何みてんだ?」
「…テキトー」
何かしたくて、花道にあげたビデオから適当に抜き出した。本当は見ただけでどこのチームのどの対戦かすぐにわかるのに。わかっていても、今の流川は理解していなかった。
「まだ部屋寒いか?」
「…別に」
口ではそう返事をしながら、流川は毛布から出ようとはしない。
試合に負けたあとの流川を見るのは、実はこれが初めてだった。
「髪乾かすから、そっち詰めろ」
小さなストーブを取り合って、ほとんど触れ合いながら座った。流川はため息をついただけで、離れては行かなかった。
赤い炎とブラウン管からの光以外ない部屋で、お互い顔を合わすことはなかなかできない。
「…オメー、いつもコートに行くんか?」
「……そー」
主語のない花道の質問に、流川はちゃんと答えた。
「去年の冬も?」
花道の横目に、流川が素直に頷いたのが見えた。
「インハイんときも?」
「…すぐに新幹線に乗った」
「…そっか」
花道の知らない試合。そのときの流川の顔も、もちろん知らない。
けれど、今はこの部屋にやってきた。
そのことが、花道はとても誇らしかった。キャプテンとして頼られたわけではないし、親友でもないけれど、流川の中でチームメイトとして位置づけられ、同じ辛さを乗り切ろうとしに来た気がしたから。
「…さっき…膝を故障した選手がいた…」
流川がそう言うだけで、花道もどのビデオのことかすぐにわかる。それくらい、繰り返し見ていた。
「タンカで運ばれて…手術して…」
その間、バスケットが出来なかったのだ、という言葉は、流川は口にしなかった。
この気持ちは、花道にも流川にも共通理解できるものだったから。
「アイツ、復帰したじゃねぇか」
「…アイツとか言うな、どあほう…」
尊敬するプレイヤーに関しては譲らない流川は、花道には驚きだった。認めた人物には結構尽くす男なのだと、花道は笑うしかできない。
落ち込んだ様子のまま、自分のところにやってきた天敵は、花道の顔も見ないで自分を包むように座っている。いつもより小さく見えるその姿は、花道の優しい部分を引き出した。
毛布ごと、花道は流川を自分に引き寄せた。大人しく自分の肩に乗せられた頭からは、自分と同じシャンプーの匂いがする。花道は目を閉じて、両腕に力を込めた。
「…オメーも復活する。これからまた走ろうぜ」
頭頂部に直接伝えられた言葉を、流川は目を開けたまましっかりと聞いた。何度か瞬きしたあと、体からすっかり力を抜いた。そうしても温かい腕は倒れたりしないから。
「……テメーはシュート練習でもしてろ、ヘタクソ」
「こっ このヤロウ! オメ…」
花道の文句は、いきなりいつもの彼に戻った流川に遮られた。
毛布から顔だけ出した流川が、膝の上に降ってきた。
「試合に負けた後の二人」を書きたかっただけなのに、
なんでこんなに長くなるかなー 私って…