Fox&Monkey


   

 流川も花道も、自分たちがしていたことに名前を付けたことはない。すべてを「なんとなく」で済まし、二人とも二重人格かのように、昼と夜とを使い分ける。ほとんど無意識だったが、それが二人の共通点だった。素直になれないのが一因なのかもしれない。
「…セックス…?」
 流川はふとんの中でぼんやりと呟いた。口に出してみると違和感を感じ、頬が曲がった。
 何かが違うような気もするけれど、行為自体はそれに近い。その点は花道と同意見だった。
「どーでもいー」
 あちこち痛む体を持てあまし、流川は枕に顔を埋めた。

 夜が明ける前に、花道は正直に自分の考えを話した。真面目な顔を自分に向けて、少し照れたような困ったような、複雑な表情を浮かべていた。何度思い出しても、口の端が上を向く。
 流川は見ていないが、花道はビデオを見たらしい。
「じっくり見たわけじゃねーぞ」
 と言い足したのは、照れなのか、苦手だと強調したかったのか。流川は思い出しついでに考えた。
 映像の中の男女と、自分たちは、同じだ。花道はそんな風なことを小さな声で言った。極端なような、でもそういえば、と思える節もある。流川は心の中だけで頷いた。
 論じたかったことはどこなのだろうか。
 花道のいない部屋で、流川は何度も寝返りを打った。ため息をつきながら、ずっとそのことから頭が離れなかった。
「あれって…」
 男女がやることだ。恋人同士がすることではないのか。
 その手の情報に疎い流川でも、ああいうビデオが作られたものだと知っている。
「ってことは…」
 愛がなくてもできる。単なる肉体関係のケースもある。
 花道はこれが言いたかったのだろうか?
 流川がどんなに考えても、その答えは導き出せなかった。花道がいう「最後までやりたい」というのは、男同士でも出来る限り、ということなのか。そのおかげで、自分はこんなにも痛い思いをしなければならないのだろうか。
 ズキズキ痛む二日酔いの頭を抱え、流川はきつく目を閉じた。
 謎だらけだけれど、流川は怒ってはいない。されたことに、嫌悪感も感じていない自分が不思議だった。それどころか、体だけと自分で考えた一つの答えに、胸が痛くなった。

 短い眠りの後、花道は流川を置いて部屋を飛び出していた。行き先は、コートと悪友の家だった。先輩よりは、まだマシだった。それでも花道は、借りたものを両手に抱え、人とすれ違うたびに緊張した。
「…見えるわけじゃねーんだけど…」
 肩を丸めながら歩く自分は、自分らしくないと花道は自分を叱咤した。
「この俺様が…」
 あの天敵のために、努力を厭わないとは思わなかった。自分勝手な思いつきだけれど、健気だと少しうっとりする。
 そして昼を過ぎてもきっとふとんから出ていない姿を想像し、花道は自然と顔が笑う。それに気づいてすぐに首を振るが、またすぐに頬が弛む。
「…情けねー」
 ため息とともに呟いて、花道はやはり俯いて歩いた。

 


2003.2.20 キリコ
  
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