Fox&Monkey
流川を確認したとき、花道はものすごく嬉しくて、泣きそうになった。「どあほう」と呼ばれたとき、ムッとするけれど同時にホッとする。マゾではないはず、と花道は首を傾げた。
「したい」と思うのは、自分だけはないらしい。そのことが、また嬉しかった。言葉で「しよう」とは言わないけれど、花道を受け止めようとする仕草は、流川らしくないと思う。けれど、愛おしかった。
「あれ…俺、今なんか変な単語が…」
頭に浮かんだ言葉をふるい落とそうと、花道はシャワーをきつくした。
「…なに?」
すぐ後ろで、流川も立っている。狭い風呂場は、暗い上に湯気で互いが見えなかった。晩ご飯を家族と食べた後でやってきた流川は、それでも花道の夕食につき合った。来て帰ったスウェットをまた持ってきて、わざわざ着替えている。学ランは、いったい何の儀式だったのか。花道は心の中で笑った。
食後すぐに、二人はふとんになだれ込んだ。まるでそれが目的だったかのようにも見える。単に、中途半端が好きではないのだ。今日を逃せば、きっとずっと踏み込めない、とどちらも感じていた。
部屋を真っ暗にすると、いつもの夜の二人だ。酔っていない流川は、昨夜の分を取り返すように、花道にいちいち反撃する。花道は、しどけない流川も気に入っているが、こちらの方が自分たちらしいと漠然と思っている。まるでケンカの延長だ、と誤魔化せるからかもしれない。
結局、ビデオや本でかじっても、それは何の助けにもならなかった。
「…イタイ…」
自分に弱音を吐くのが大嫌いな流川が苦しそうにボソリというのだから、かなり辛いのだと思う。流川も気持ちだけは協力的だが、体の構造上無理はなかった。「そこ」を使ったセックスについて、存在は知ってはいたけれど、初心者な二人はそのことを知らなかったのだ。
花道は諦めて、すぐに身を引いた。自分も痛いというのが、本音だった。汚れた体を洗い合うのも初めてだった。暗いままで入ったため、せっけんの在処もわからない。それでも互いの体はわかり、撫で合うように洗った。
花道の大きな手は、流川の背中を包むように洗う。温かい手は心地よい、と流川は目を閉じた。けれど、手がどこまでも降りていく様子に、落ち着かなくなった。
「…今もイタイ?」
耳元で囁かれ、流川はただ首を横に振った。花道はときどき、ゾクッとするほど、大人びた仕草をする。
しばらくお尻の上で手を止めたまま、花道は考え込んだ。
黙って動かない花道に、流川はすぐにしびれを切らした。
「何やってる」
「……ルカワ、ちょっと座れ」
手を引かれて、花道を跨ぐように座らされる。流しっぱなしのシャワーが少し遠のいた。
それ以上何も言わず、花道は流川が痛がったその場所を指で撫で始めた。泡でヌルヌルした感触は、正直なところくすぐったくて、流川は身を捩った。
「…平気?」
少し指を入れられて、流川の体はビクリと跳ねる。痛くはなかったので、ただ頷いた。
初めて受け入れる指に、流川の意識は集中した。そこにばかり気を取られるのが嫌で、花道に口吻ける。驚いた花道も、すぐに首を上げた。
ものすごく興奮しているのに、冷静に状況を見ていた花道は、自分が指を出し入れしても痛がらないことに気づいた。せっけんの滑りのおかげだと、自ら学んだ。
「平気か? ルカワ」
「……しつこい」
返事をした流川の息は荒かった。痛いのを我慢しているのではないのが、花道の腹部に当たる流川自身でわかった。
増やされた指を、流川のそこは拒絶しない。リラックスして、滑る助けがあって、ほぐすのだ。花道は、下半身だけ興奮させながら、本当に冷静に観察していた。
花道は顔を上げて、見えない流川の顔を見つめた。突然ピタリと止まった花道を、流川も見返す。二人の小さな合図だった。
流川は自分の腰を支える花道の手を頼りに、ゆっくりと体を沈めていく。指とは違う大きさに、さすがに痛みがないとはいえない。けれど、これまでのような辛さとは違っていた。
「…はっ」
「…ルカワ…深呼吸して」
力を入れると呼吸まで忘れてしまう。花道も、解れていない体はきつかった。
長い時間をかけて花道のすべてを受け入れたとき、流川はすでに疲れ切っていた。花道が背中を撫でながら、何度も宥めた。
「全部…入った。ルカワ……わかる?」
花道の肩に顔を埋めていた流川は、ほんの少しそこに意識を集中させた。言われてみれば、痛くて熱くて苦しいものが、自分の中にあった。
「…ルカワ…ルカワ…」
何度も呼びながら、花道は流川の胸に縋り付いた。すぐにイッてしまっていたけれど、花道は流川の中から出たくなかった。流川は、重たい腕を苦労して上げ、花道の首に巻き付いた。
二人で深呼吸したあと、流川はボソリと呟いた。
「桜木…」
「…あんだ?」
「…次は、テメーの番な」
「………えっ?」