Fox&Monkey
残りの春休みをクーリングダウンに使った。そのことは特に相談もなく、どちらも勝手にそうしたのだ。同じ行動を起こすあたり、似たもの同士なのかもしれない。一日だけ奇妙なほど盛り上がった花道と流川は、それ以降、部活以外一言も話もしなかった。
先にしびれを切らしたのは、花道の方だったが、今度は歩み寄り方がわからなかった。
新入生を迎え、新学期が始まる。新入部員の新歓パーティがあった。大学生と違い、高校生、しかも入学したての生徒たちにお酒はまだ早かった。けれど、そんなことを気にするのは一次会までで、上級生や強引に参加してきた卒業生だけになるとアルコールも多少は入る。流川自身は、自分が強くないことと体に良くないという思いから自制した。したつもりだった。
三次会あたりからは、かつてインターハイで健闘した馴染みの顔ぶれになる。三井がいつまでもいそいそとやってくるのは、最も期待する後輩たちが最上級生となるからかもしれない。そして、やたらと構うのがその証拠だろう。
「おい流川? オメーはあれからサボってねぇだろうな」
「…サボったことはねーです」
ガシッと引き寄せられた肩を、流川ははね除けなかった。
「あのよ、俺ぁあれから考えたんだが…」
「…?」
「流川のくせに、まさかやりすぎ…とかじゃねぇだろうな?」
耳元でボソボソ言われて、流川はその言葉を理解しようとする。けれど、意味がわからない。
「…何のこと…」
「っかーーっ! ムカつくね! 流川のくせに!」
何度も自分の分際で、と言われていることはわかる。けれど、三井の言の核心には行き着かなかった。
「…チクショーうまくいってやがるのかよ」
「……せんぱい?」
「おい流川……どんななんだよ? え?」
酔った三井の言葉を、酔った流川はぼんやりと聞いた。根気よく待っているように見えるが、流川は自分の状況すら理解していないだけだった。
ようやく尋ねられたことの内容がわかってきて、流川はどこか偉そうに話し出した。
「おい、イイもんなのか?」
「……最近は…」
「…ってことは、最初はやっぱそうでもないとか」
流川は大きく首を縦に振った。
「せんぱい……むつかしーッスよ」
「……くっそぉ…なんかムカつくな、オイ。ってことはよ、俺のやった本は役に立ったンか?」
「…今あっちが持ってるッス」
「そんなモン部屋に置いていいのかよ……それって絶対年上だよな」
流川にはその推測がわからず、重い瞼を少し上げた。
「いや…一緒」
「なっにーーっ」
急に三井が叫んだため、周囲はその一角に注目する。
「あんだよ、こっち見んじゃねーよ、オメーら」
「…ミッチー、何話してんだ?」
ずっとその二人の背中を見ていた花道は、当然その話題が気になった。
「いいから、こっち来んな、桜木」
三井は手を振り、流川はぼんやりと花道を見返した。少し距離を置いて、花道は素直に座った。
「オイ…どこまで話したっけ」
「……むずかしい?」
「…そうだっけ? まーいいや。けどよ、実際どっちがいいわけ?」
「………どっち?」
ここまで来て、流川は三井と自分との想像が全く違ったものだと気が付いた。三井が思う自分の相手は女なのだ。
返答に窮した流川は、何度か瞬きをしながら三井を見返した。
「まー年下のオメーなんぞに教えてもらうまでもねーけどよ。それにしても、バスケ馬鹿だと思ってた流川も、男だったんだなぁ…」
しみじみと言われ、流川は何を当たり前のことをと首を傾げる。ストイックに見えることを、流川は自覚していなかった。
「ミッチー? 何当たり前のこと言ってんだ?」
花道は、流川と同じことを考えた。
「あぁん? おお桜木。流川もオメーと同じ男だが、オメーなんぞすっかり遅れを取ってるぜ」
「……何の話だ?」
「信じらんねーよな。なんか想像つかねぇぜ。どんなツラしてヤッてやがるんだか…」
三井の何気ない疑問が、今のこの二人をどれほど困らせているか、本人は当然わかっていない。三井が気にする流川の相手が、自分の目の前にいるとは思いもよらなかっただろうから。
「……あれ、桜木? 負けず嫌いのオメーが珍しく流川に突っかからねーんだな」
その不思議そうな言葉に、二人はハッとした。けれど、その役割を演じる前に、三井はもう別の話題に移っていった。
「流川の彼女って、いったい誰なんだよ、オイ」
と、桑田たちの方に向かって叫んだ。聞かれた方も、話題の本人も、ものすごく驚く質問だった。後日、三井はこの問いの答えを、自分で見つけることになる。
ミッチーに出張ってもらってます。コワしてたら、ごめんなさい…