Fox&Monkey


  

 花道は、初めて一人で外に出た。改めてここは外国なのだ、と気づいた頃には、流川家からすでにかなり離れていた。振り返っても、見知った顔はいない。日本人らしき人が皆無の状況に、「アメリカだ」と感じた。花道は唇を尖らせて、家を背にしてまた歩き出した。花道は怒っていた。

「俺をバカにすんな!!!」
 大声を出して、流川の部屋を飛び出した。こういうケンカは久しぶりだった。
 流川の提案は合理的ともいえたが、花道には引っかかるものがある。同級生であるとか、流川の家が花道より裕福であるとか、いろんなことが頭の中をグルグル巡った。けれど、花道が最も苛立つのは、そのお金が流川のケガによるものだからだった。

「だから最初にいった。恥も外聞もって」
「…ちょっと待て。その金はテメーのだろ?」
「俺の金だから、俺がどう使おうと俺の自由」
 二人とも腕を組みながら、にらみ合うように話し合った。花道の留学費用の援助ともいえる大事なことだった。
「いや、テメーの金…って、テメーがケガしたときの金だろ?」
「…相手と保険会社」
「や、だから…そんな金、俺もらえねーよ」
「どあほう、やるなんて言ってねー」
 花道はケガをしたときの流川を思い出して、俯いてしまった。
「オメーが受け取った金、受け取るべきモンじゃねぇか…あンだけイテー思いして…」
「…桜木、ちゃんと聴いてるか?」
「…ダメだ…そんな金…」
「じゃあ、どうやってこっちに来る。俺は貸してやるっつってるだけ」
「そんな金、ダメだ!」
 花道はその理由をうまく伝えられず、もどかしかった。結局、怒鳴って出ていくしかできなかったのだ。

 

 昨日、時差ボケにも負けず、花道は流川を引き連れて散歩に出た。ちょっと歩くとバスケットコートが街中にある。庭にリングがある家も多い。そのことに二人は驚いて、少し感動した。
 花道が今歩いているところにもコートがあった。元気な少年達の声とボールの音に花道は吸い寄せられた。
 どう見ても、自分と同じくらいの年齢だと思った彼らは、未だジュニアハイだという。体の大きさも技術も、自分とどこが違うのだろう、と考えた。そして、自己紹介以上の英語を話せない自分を再確認した。
「これがアメリカか…」 
 花道は見学に行った大学のことを思い出してみた。
 もしかして、日本で巧い、と言われるレベルが、こちらではごく一般的ないのだろうか。
 流川や、彼のようにアメリカを目指すバスケット選手の気持ちが、花道は初めてわかった気がした。

 


2005. 5. 13 キリコ
  
SDトップ  NEXT