Fox&Monkey
部屋に着くまでの間、花道は冷たい手を握る自分にドキドキしていた。
それなのに、と思う。そんなウブな気持ちが消えてしまったかのように、2人きりの時間は自分を男にした。流川の手をそのまま引いて、ふとんになだれ込んだのだ。
暗い部屋の中で、ジャケットを脱ぐ花道に、流川はその首に巻き付いただけだった。身体が冷えてでも、眠気と戦いながらでも迎えに来てくれた流川を、花道は力強く抱きしめた。
「…ルカワ…その…」
もしかして流川もそうだったのだろうか、と花道が思えるくらい、流川も同じ動きをした。
久しぶりに抱き合いたかったのだ。花道は、流川の服を脱がさないまま、少しずつ肌を露出していった。冷たい首筋に対し、胸や腹は温かかった。その温もりに頬を当てて、花道はうっとりした。重なる手のひらは、花道の熱が移動したようだった。
迎えに来てくれた嬉しさを表現したくて、花道は丁寧に時間をかけた。徐々に温まる体の反応を、ゆっくりと見ていた。仰け反る顎の向こうから、ときどき高いため息が聞こえ、花道は煽られないよう自分に言い聞かせた。
流川の分身を口に含むのは、まだ数えるほどしか経験がなかった。花道自身、それほど積極的にすることではないが、流川の方が暴れて嫌がるからだ。それが照れによるものだとわかるけれど、機嫌を損ねるのも困る。そんな身勝手な理由から、あまりしない。けれど、その夜は徹底的に奉仕すると決めた。
ジャージを太股までずらしただけで、流川は身をよじる。どれだけ互いを見せ合っても、羞恥心は消えないものらしい。屹立しかけているそれを、花道は一気に口腔内に含んだ。今日も、流川は暴れた。
「ヤメロ」
いつもより大人しめの声に、花道は逆に増長する。動く腰を両手で押さえ、口の中に力を入れた。
このときは、愛撫のときとも花道を受け入れたときとも違う声を出す。そんな流川にはまっていた。赤い髪を引っ張られても、花道は流川の最後まで放さなかった。
「はぁ……」
静かな部屋で、シーツの音と流川の荒い息だけが聞こえる。本当は花道の呼吸も荒いけれど、自分のはわからないのだ。そして、それは流川も同じだった。
いつもなら、ここで「どあほう」と来るところだった。
「ルカワ…へーき?」
分身を花道の手に預けたまま、流川の呼吸は規則正しいものになってしまっていた。
「…え……ま、まさか…」
すっかり温まった体は、すでにぐったりしている。花道は、時間をかけすぎた自分を呪った。やはり、夜中は無理なのだろうか、と花道は首をガクリと垂れた。
ほのかに明るい部屋の中で、流川は寒さで目覚めた。季節の変わり目は仕方ないと思っても、眠りが足りなくてムッとする。少しでも寒さを凌ごうと、寝ぼけた体でふとんを探した。
「……?」
少しだけ頭を起こして下を見ると、そこにはむき出しの自分自身があった。ふとんから出ている下半身が、いつも以上にひんやりしている理由がわかって、さすがの流川も完全に目が覚めた。どれだけ考えても過程しか思い出せない。どうやら自分は途中で眠ってしまったらしい。そして、これが花道のささやかな仕返しなのだろう。
「…どあほう…」
呟きながら、流川は身を起こした。照れと怒りと申し訳なさが混じる、迷った声だった。
時計を見ると、もうすぐ6時というときで、休みの日に自分が起きる時間ではない。花道はどうかはしらないが、今日はまだ目覚めていない。狸寝入りではないその呼吸に、流川はため息をついた。そのだらしない顔に、申し訳なさが勝った。
「起こせよ…」
流川がそう思っても、実際には無理だと花道はわかっていた。流川にもなんとなく想像がついて、心の端だけで謝った。
昨夜、花道がしたことを思い出して、流川の体は熱くなる。まだ仕舞われていない下半身に血液が集まった。
どうしてあんなことができるのだろう。
そんな疑問と謝罪の意味からか、流川は花道の真似をした。花道は、昨夜の続きを夢に見ていた。自分でエロい夢だ、と客観的に見ながら、流川の痴態に負けそうになる。こういう夢を見ると、下着を汚してしまう。わかっていても、目覚めたくないのが本音だった。
「ルカ…」
現実に言葉にして呼んでいるのを、花道は気づかなかった。
一方、流川には、その声が聞こえていても、理解する余裕はなかった。
突然口腔内に放たれて、流川はかなり動揺したから。
「……ルカワ?」
バタバタと洗面所に駆け込む背中を、花道ははっきり目を開けて見た。目が覚めたのか、まだ夢の中なのか、すぐには識別できない。
「え……え? ま、まさか……えーーっ!」
花道の頬がみるみる赤くなる。同時に声も大きくなっていった。
下半身に淡く残る温かさは、どうやら本物だったらしい。
花道は、叫びそうになった。
「る、ルカワ! だ、だいじょぶか?」
咳き込む声だけが聞こえる洗面所に、花道も走る。嬉しかったけれど、苦しそうな姿が心配だった。
「ルカワ?」
勢いよく水を流し、流川は俯いていた。花道の何度目かのかけ声に、ゆっくりと顔を上げる。少し青ざめた顔と涙の浮く瞳が滅多に見られない顔だ、と花道は観察した。
「そ、そのよ…し、しにはしねーからよ」
「……どういう意味だ?」
問い返されたことに、花道は少し困った。
「…う、うまかねーけど、のんでも害はねー…と思う…」
この文章を理解するのに、流川はかなりの時間がかかった。
これまで花道は自分のを…と想像しただけで、流川は目眩がする思いだった。
「あ、おい、また吐くのか? 全部吐いちまえ! えーっと、トイレの方が吐きやすいかな…」
口元を手で押さえた流川の背中を、花道はゴシゴシこすった。
こんなあからさまな態度の自分を怒らない花道はやはり優しい男なのかも、と流川は思った。
流川はお初でしたんです(笑)