Fox&Monkey


  

 大人しく云うことを聞く。
 そんな約束をした覚えはないけれど、花道は流川にそう求めた。
 流川の脳裏からは今朝の自分がどうしても消えなくて、今度こそ「それ」なのかと身構えた。
 けれど、流川の思っている以上に、花道はロマンティストだった。

 花道の頸に回された両腕を外させないまま、花道は事に及んだ。いつもより密着するので、花道は動きにくいけれど、いつもより身近に感じられた。
 まだ明るい中で天井を見上げる流川は、ずっと目を閉じなかった。そうしろと云われたわけではないけれど、ときどき目線を下に向けて、真っ赤な髪を確かめる。何度見返しても、砂浜でも見た花道本人だった。
 ゆっくり動く唇が下腹部に降りていく気配に、流川は初めてストップをかけた。両腕で花道のトレーナーを引っ張り上げる。それ以上の行為が苦手なのと、今朝を思い出すのと、そして花道の申し出が全うできなくなるから。
 頸だけ起こした流川のそばまで上げられて、花道は憮然とする。流川の云いたいことが、花道にも伝わった。口を尖らせた花道に、流川は掴んでいた腕を解いて軽く口付けた。
 流川の肩を抱きながら自分を受け入れてくれる場所を解すと、流川の息づかいがこれまでよりはっきりと聞こえる。そのせいか、いつもより余裕がなくなるのが早かった。
「えっと…」
 あまりムードもなく、けれどその単語は口には出来ない。今日はいつ見ても目を開けている流川にも、落ち着かなかった。花道が起きあがって少し離れたところの物を取ろうとしても、流川はその腕を外さなかった。当然、それを着ける間も、流川は逃げなかった。
 向かい合う形で座り、頭と頭をぶつけるように、自分たちの下腹部を見る。その姿があまりにもおかしくて、そして流川の視線に動揺する。花道は慣れたはずのことにも手間取った。
 流川はこれまで花道のそこを注視したことはなかった。見たことも触れたこともあるけれど。
 そして、流川は花道の手を止めた。
「な、なに…?」
 ただでさえ緊張しているのに、流川の動きがますます花道の心拍を上げた。
 流川は、両腕を外し、花道のものを両手で包んだ。ゆっくりと前屈みになりながら、早く目をつぶってしまい、目標が少しずれた。けれど、流川はそれを口に含んだ。
「え、あ、えーっ」
 花道の全身が緊張で固まった。
 ほどなく、花道は我慢がきかなくなる。その寸前に、流川の顔を引き離した。
 それが、かえって流川を怒らせた。
「…テメー…」
 花道が慌てて拭き取るのと同時に、流川が低い声で唸った。
「す、すまねぇ…」
 ゴシゴシと力強く顔を拭く。花道は流川の表情を見るのが怖かった。
「いやでも…これもよくあることだし…」
「……なに…?」
「あ、いや、シカエシじゃねーぞ。でも俺もよくオメーのが…」
 花道が最後まで言う前に、流川は花道の手を払いのけた。
 これまでに、自分の知らないことがいろいろあったのだ、と妙に気まずくなった。今朝から驚かされてばかりだった。
 先ほどまでの穏やかな雰囲気がなくなり、花道も戸惑う。けれど、つい正直に本音を漏らした。
「…俺…いま、すっげーキた…かも…」
「………どあほう…」
 流川は赤い頭を叩いた。自分からしたことを棚に上げて、忘れろ、と言いたかった。
 大きなため息をついて、流川はキッと視線を上げた。
 ずっと目を開けているつもりだ、というのが、花道に伝わった。花道の頬が少し赤くなった。

 花道は、座った状態でするのが気に入っていた。
 この体勢なら、流川は自然と両腕を頸に回すし、どうしても密着してしまう。何より、それが初めて成功した体位だったから。
 流川の鎖骨を甘噛みして、耳元で流川のため息を聞く。震える背中をゆっくりと撫でて、花道は流川を押し倒した。
 両腕を頸に固定されることで、やはりどうしても動きに制限が出てしまう。それでも花道は、嬉しさの方が勝った。強い視線は結局閉じられて、流川はときどき眉を寄せる。花道はその表情を間近でずっと見続けた。
 花道が少しだけ体を浮かせたとき、流川は歯を食いしばった。
「ルカワ…?」
 小さく問うたその瞬間、花道の顎あたりに飛び散ったものがある。花道はいつもそれを確認してから、自分も放つようにしていた。
 互いの荒い呼吸だけがしばらく響き、花道はゆっくりと流川から体を離した。
「…ルカワ? 見る?」
 花道は先ほどまでの会話を思い出して、わざと拭わないでいた。
 素直にゆっくりと目を開けた流川は、花道の指差す先を確認した。
 それが実はいつものことなのだと今日初めて知った。
「今日は…アゴ」
 照れ笑いをしながら、花道はとんでもないことを報告する。ロマンティストなのかと思ったら、それだけでもないらしい。流川の想像の枠を、花道は余裕で超えていた。そして、これまでそういうことを黙って受け入れていた花道は、よほど自分のことが好きなのだ、と思えた。
 言葉よりも行動の方がはっきりしているのはお互い様だと、流川はわかっていなかった。新たな花道を発見しても、それも花道だと受け入れているのだから。
 その日、花道がどれほど嬉しかったか、流川は想像できなかった。

 

 


まだアメリカから帰ってきて一週間くらいの話。
すーすーまーなーいーねー(笑)
意外にもナマナマしい単語を使えない私(ぷっ)
そのせいで尚わかりにくいかもです。

2006. 1. 19 キリコ
  
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