Fox&Monkey
久しぶりに三井は湘北高校を訪れた。今はまだチームメイトとして戦った後輩たちがいるから。
紅白戦をしていたバスケットボール部で、彼のよく知る花道と流川は、別のチームに分かれていた。三井の知る限り、こういうときに彼らが一緒だったことはほとんどない。そこにどのような意味があるのか、三井なりに考える。
「ま、敵わなねーよな」
相手チームが、彼らが揃ったチームに勝てることはまずないと思うのである。
または、仲が良くないと部員たちも思っているので、後輩たちは疑問にも思っていないかもしれない。
「どーでもいっか」
もう一つ、三井が想像する理由を思い浮かべず、くだらない考察を止めた。
ちょうどそのとき、花道のチームの勝利が決まった。
「イェーーイッッ!!!」
よくわからない大声で、花道はチームメイトと手をたたき合った。それは単に喜びの表現ではあるが、対戦相手のムードを一層下げるものでもある。
案の定、負けることが人一倍嫌いな流川が花道を睨んでいた。
「見たか! ルカワ! これが俺様のジツリョク!!」
「……どあほう」
「負け惜しみかね、ルカワ君」
流川に絡む花道の姿には、誰も驚かない。もちろん三井も驚きはしない。けれど、こういう見慣れた姿からは、それ以外の彼らを想像できなかった。
「……俺の勘違い…?」
「ミッチー?」
「あれ、久しぶりじゃん」
三井の呟きに反応したのは、桜木軍団だった。
「おお…お前らか」
「ぐーぜんスね」
「…ここで会うのが偶然か?」
「…いや、俺らが見にくるのも久々だったんで」
それでも、いきなり現れるところや三井に対する態度は、以前とあまり変わらない奴らだ、と思った。三井は指導に来たわけではなかったが、後輩たちが三井を見れば、どうしても引っ張られてしまう。
「ミッチー、人気者」
花道は嬉しさをそんな風に表現した。
流川はペコリと頭を下げて、練習に戻った。
そんな彼らを、桜木軍団はじっと見ていた。これが最後かもしれない光景だと思ったから。
花道が卒業後アメリカに行くことは、桜木軍団の想像の範囲だった。ただ、具体的な生活について、例えば流川宅に居候することなどは、彼らを少なからず驚かせた。
「…なぁ、花道たちって公認なのか?」
「ま、まさか…」
乾いた笑いを浮かべるけれど、軍団には答えは見つけられるはずもなかった。
「花道の嫁入りみてーだよな」
「入り婿じゃねぇの?」
「あんなデカイのが二人になったら、大変じゃねぇの」
「アメリカだったら、珍しくもねぇよ、きっと」
体育館で学ラン姿は彼らだけだ。ヒソヒソ声でもないが、内容は誰も聞き取れないだろう。花道は目線だけを何度も送った。
赤木晴子がマネージャーを引退したあと、桜木軍団はほんの少しだけ遠慮した。
「なんつーか……居場所がなくなってく感じ」
「おめーは来年もいるんじゃねぇの」
「人のこと言えねーだろ、てめーも」
洋平はため息をついて、簡単にまとめた。
「まあ…卒業するってこんな感じなんだろ」
そして、桜木軍団の花道も、彼らの元を巣立っていくのだろう。口にはしないけれど、寂しいことだった。花道もその日、軍団が来ていたことがとても嬉しかった。
その夜、花道と流川、三井と桜木軍団で、揃ってラーメンを食べた。珍しいことでもないけれど、おそらく流川以外の誰もが少ししんみりしていたのを互いが気づかせないように振る舞っていた。だから、花道はいつも以上に浮かれていたし、三井は先輩であろうとした。
結局、花道はすぐにアルバイトに行ってしまう。その背中がいつもと違うように流川は感じた。そこで初めて、周囲も変だと気づいた。
「流川よ…アメリカ行って、どーすんの」
「……バスケット」
「ミッチー、流川に何が聞きてーんだよ」
話をはぐらかそうとする桜木軍団を無視して、流川は三井の顔を見た。
「…先輩?」
「…てめーも、桜木のヤツも、一度はケガしてる。だから、気をつけろ」
流川は驚いた顔をして、その言葉を脳内に染み込ませた。そして、小さく頭を下げた。
「贈る言葉には、まだちっと早いんじゃねぇの、ミッチー?」
「う、うるせーよ、てめーらは!」
三井は腕を大きく振って、桜木軍団を遠ざけようとした。
「流川」
「…うす」
「…その…桜木と向こうでも一緒なんだろ?」
「……うす」
素直な返答に、三井は耳の横をかいた。
「ま、なんつーか……仲良くやれよ…」
「………はっ?」
「な、仲良くケンカしろってことだよ、バカ野郎!」
急に声を荒げられて、流川は戸惑う。それよりも前の言葉がまだ理解できていなかったから。
「…先輩?」
「だーーっ! もう帰るぞ、てめーら!」
「あ、今日はごちそうさまでした。ミッチー先輩」
息のあった呼吸で軍団は同じ事を言った。
「ば、バーロー! 俺だって学生なんだよ!」
そして、三井は慌ただしく立ち上がる。考えたまま止まっている流川を放ったまま。
「ずりーよ、花道と流川だけオゴリなんて」
「これは餞別なんだよ!」
「ミッチー、それは安すぎねぇ」
彼らの笑い声と三井の怒った声が外へ出てしまった頃、流川は一度首を傾げて、そのまま立ち上がった。
三井と軍団の後ろを歩きながら、少し寂しげな背中を思い出し、花道のアルバイト先に寄ろうかなという計画を立てていた。
私は流川ファンで、ミッチーが大好きです!