とらい
部室での着替えなら、平気なのに。
なぜ、場所が違うというだけで、裸がこんなにも気まずいのか、流川には謎だった。その答えを導き出せるほど、こういうシチュエーションに慣れているわけでもない。とりあえず、お互い上半身をさらけ出して、しばらく固まっていた。
直接的な誘いをかけたのは、花道の方だった。どうしてそうなったのか、さっぱりわからない。感情を伴わないベッドイン。興味本位か、ケンカの代わりか。流川はそこに意味づけしようとしたが、やはりこれも解答できなかった。背中に当たる畳が痛いとか、違うことを考えようとした。
視界の中の花道はいつもの1/3ほどのスピードで動いている。自分を目指して。
「い…いくぞ…」
何のかけ声なのか、花道は乾いた声で宣言する。震える指は、流川の左の乳首に近づいた。
そんなところが何だというのか。
軽く触れられても、流川にはそんな気持ちしか芽生えない。ゆっくりと動く指を不思議な思いで見つめていた。そのうち慣れたらしい大きな手が胸全体を包んでも、流川は首を傾げたままだった。
花道は力加減を考えながら、流川の様子をうかがった。ばっちりと目があっても、いたって日常と変わりない。興奮しているのは自分だけなのか、とムッとする。
その瞳を見て、流川はたいくつそうに両腕を首の下に置いた。ため息まで出ていたら、花道はそれ以上先へ進めなかったかもしれない。流川はただ静かに目を閉じた。
覆い被さることが恥ずかしく、花道はずいぶんと体を浮かせたままだ。それが精一杯だった。けれど、触れたいという気持ちで溢れている。緊張しすぎな自分を解してくれるのは、いつでも流川なのに。
花道が爪を立てると、乳首がその存在を示す。そのことに勇気を得て、花道は両手を使った。胸あたりを大きく撫でると、小指が腋に近づき、流川はくすぐったそうに身を縮め、また体勢を変えた。花道に抱きつくこともできなかったらしく、また元のように畳に投げ出された。
逃げる気配のない流川にちょっと首を傾げて、花道は意を決する。この白い肌を直接舐めたら、どんな味がするのだろうか。脱いだときからの興味だった。
その突起が生ぬるく包まれたとき、流川は眉を寄せて目を開けた。何とも不思議な感触に、少し首を起こす。赤い髪が自分の肌に触れるのがくすぐったい。それはおまけらしく、花道は無心にそこを舐めたり吸ったりしているらしい。流川は感じるよりも、そのことに笑いそうになった。けれど、それも花道が歯を使うまでのことだった。
「……っ」
ビクリと腰が揺れて、流川自身も花道も驚いた。規則正しい呼吸が止められる感覚。声がもれたというよりは、口元だけで悲鳴をあげたかのようなため息だった。今度は、花道に目を合わせることができなかった。
一度感じだすと、止まらないらしい。流川は、自分の意志とは関係なく反応する自分の体に戸惑った。いちいち跳ねる肩や腰を畳に縫いつけなければ、と思うくらい。
反対側の胸に移動すると、唾液で光る胸が空いてしまう。花道は、自分の口が一つしかないのを残念に思うくらい、そこに夢中になった。利き手で力強く抓んでも痛がらないことに気づき、強弱をつけて弄ぶ。口の中に含んだそれにも、同時に刺激を加える。
そうだ。Hって刺激を与えるんだ。
花道は自分が正しい道を進んでいる、とますます増長する。けれど、その努力のおかげか、流川の呼吸が荒くなり、投げ出された腕はいつの間にか花道の首に巻き付いていた。
「ふっ…」
鼻から漏れる息に、花道の心臓はドキリとする。自分も同じような声を出していることには気づかなかった。花道が目線だけで見上げると、流川の白い首筋や顎が確認できる。筋の浮く男らしい首なのに、花道は伸び上がるようにそこに移動する。口を離すのがもったいなくて、舌を這わせたまま。
無意識に逃げようとする顔を追わず、花道は目の前に来た耳に攻撃を開始した。そこがたいていの人間のウィークポイントだと、おそらく本能で知っている。花道は、ほとんどぴったり体をすり寄せ、流川の耳を口に含んだ。
「あ」という言葉を発しないまま、流川の口はそのまま固まる。声を漏らすまいとしたのではなく、意外にも出ないものだと知った。目を閉じたままでは、花道の熱い体温や耳からの粘着音に集中してしまうことになり、つらい。けれど、目を開ける余裕もなかった。
花道の肩を押しのけようとして、自分の腕に力が入らないことに気づく。自分の分身が限界に近いこともわかる。
どうにかしろ。
心の中で毒づいて、流川は顎を天井に向けた。深呼吸をしようとしてゆっくり吐き出された息は、いつもより少し高く甘く響いた。
「はァ…」
その声に、流川は自分の口を塞いだ。これは自分ではない、と思いたかった。
「ルカワ…その…」
何やら言いかけて、花道はもう行動に移した。
まだ着たままの短パンの上から、互いの分身を感じ合う。同じ状態だとわかったとき、どちらも少し冷静になった。
ドロー。
同時にそう考えて、ほぼ同時に果ててしまった。呼吸が整ってきた頃、先に口を開いたのは流川だった。
「…はえー」
「なっ! て、テメーこそ!!」
「……胸フェチ」
「ち、ちが、チガーーウ!!!」
若くて初心者な二人は、余裕のない営みしかできない。お互いにそれがわかっていても、どうしても優位に立とうとした。
「お、オメー、感じ…た…」
花道の言葉は、流川の拳で止められた。
鼻血が出そうな気配に、花道はかなりキレた。
「こ、この野郎! リベンジだ!」
「……どあほう…」
やはりケンカの代わりか、と流川は思う。
ところで、勝利のゴングは誰が鳴らすのだろうか。
「とらい」は「TRY」ですよ。挑戦ですよ(笑)
私は、Hシーンを絶対入れねば、と思っているわけではなく、
あるんだろうけど描写はしないよー派? は?(笑)
でもね、ある日突然、エロばっか書きたくなる。
こりゃなぜなんだろう???2004.2.27 キリコ
4年経ってから、続きを書きました